クロスロードカフェのギャラリーで開催された展示会「アフリカ布と京都のものづくり in クロスロードカフェ」のトークイベント(9月13日)に参加しましたので、その模様をリポートします。(展示会は9月22日に終了しました)
展示会のイベント情報記事はこちら。
会場となったクロスロードカフェでは、社会のさまざまな話題や課題をみんなで考えるしゃべり場のような催し「カフェ公民館」が度々開催されています。
今回は、京都とアフリカ・トーゴをつないで服づくりに挑戦している中須俊治(なかす としはる)さんをゲストに迎え、今のお仕事を始めたきっかけや、現在進行中の新しいプロジェクトなどのお話を伺いました。
GO TO ⇔ TOGO
まず、今年4月に出版された中須さんの著書『Go to Togo一着の服を旅してつくる』(烽火書房刊)の書名について。たまたま書名が政府の景気対策「Go toキャンペーン」と似ていますが、出版準備は昨年からしてきたので無関係とのこと。
「GO TO」の前後をひっくり返すと「TOGO」になる語呂の面白さもありますが、この本にはもう一つ面白い仕掛けがあります。
本の中では日本とトーゴでのエピソードが交互に展開しますが、日本のシーンでは縦書き(ページを右から左に進む)、トーゴのシーンでは横書き(ページを左から右に進む)となります。
この本がユニークなのは、日本とトーゴのシーンが入れかわる度に、本を180度回転(上下反転)して読むようにページが構成されていること。そうすることで、縦書き・横書きにかかわらずページは常に同じ方向(巻末)へと進みます。
状況が二転三転するスリリングな展開と重なり、絶妙な効果を生んでいます。(どういうことか分かりにくいと思われた方、ぜひ手にとってご覧ください)
みんなにとっての正解が、自分にとっての正解とは限らない
続いてトークでは、中須さんが大学を休学して、単身トーゴへ向かうまでのお話を伺いました。
子供の頃からアップダウンが大きい日々を送りながらも、チームをつくることで困難な局面を乗り越えた体験を重ねてきたそうです。
大学では1人で始めたサークルが、人集めに苦労しつつも結果的に100人(!)を超えるサークルになるなど、充実感を得ていたとのこと。その矢先、東日本大震災が起こります。何ができるか悩んだ末、福島でのインタビューと映像制作に取り組んだそうです。
トークではサラリと話されていましたが、やると決めたらとことん進む性格や、被災者へのインタビューなどで人と向き合った経験などから、周りに流されない中須さん独自の感性が育まれたのかもしれないと感じました。
大学3年の秋、中須さんは一旦は周囲と同じように就職活動を始めてみたものの、企業説明会で「グローバル人材」を求める人事担当者の言葉に違和感を感じ、そうした画一的・表面的な考えや言葉自体が「グローバル」ではないと気づいたのだとか。
中須さんは、そうした疑問から「自分が納得するやり方で人生を決めたい」と思うようになり、就職活動をやめました。大学を1年間休学し、未知の体験を求めてアフリカ・トーゴ共和国へと旅立ちます。
著書では、その時の気持ちを「そしてぼくはシューカツをやめた。みんなにとっての正解が、自分にとっての正解とは限らない。」という印象的な言葉でつづっています。
地域から、アウトローの視点で
中須さんは、どうしてアフリカのトーゴ共和国に行ったのでしょうか。
大学を休学して海外行きを模索していた頃、たまたま国際系NGOのサイトで、トーゴのラジオ局がスタッフを募集しているという記事を見つけたことがきっかけだそうです。
見たことも聞いたこともない国で、調べてみるとトーゴには在留日本人が2人(!)しかいないことも分かったそうですが、不安よりも好奇心が勝ったとのこと。
続いて、トーゴの何気ない街角や友人たち、職場や食事などの日常風景が、写真で紹介されました。
パリメ(Kpalimé)という地方の町で、現地の言葉「エウェ語」やボディーランゲージを交えて地域に溶け込み、どんどんと友人を増やしていったこと、ラジオ局で番組制作に携わったことなどを伺いました。
その後帰国して、「地域との関係性の中で仕事をする」という視点から、大学卒業後に地元京都の信用金庫に就職したとのこと。
京友禅や染色の職人を顧客とする支店で信金マンとして仕事をする中で、数字に表せない価値があることや、世界一の染色技術を持つ職人でも安価な衣類の流通などの課題があって将来が見通せないことなどを知ります。
本当に価値のあるものとは何なのか?職人の世界にほれ込みながら、考えを深めていったそうです。
そのうち、アフリカで目にした鮮やかな布と、京都の染色職人の技術をつなげて何かビジネスができないかと考えるようになり、信金を退職して起業。さらに2度目のトーゴ渡航で現地に会社を立ち上げて・・・と突き進んで、現在の「アフリカと京都をつないだ服づくり」にたどり着いたとのこと。
福島でのドキュメンタリー制作、「グローバル人材」という言葉に違和感を感じた学生時代、見知らぬ国トーゴで地域に溶け込むことで得られた手応え、信金マンとして目にした地域に埋もれる価値・・・いずれも地域に足を踏み入れ、自分の足で歩き考えてきたこと。
そうした(中須さんの言葉を借りれば)「アウトロー」の視点だからこそ見い出せた価値観があり、それらをビジネスとして形にすることで、ローカルの価値を持続させ、グローバルに発展させることができる。こうした熱い思いをトークの端々に感じました。
コロナ禍の今、シューカツを考える
中須さんのトークは、起業するまでのいきさつが中心で、クロスロードカフェ店主の荒木さんによる予定調和のない大胆な進行もあって、大いに盛り上がりました!
中須さんの起業までの詳しい話(初めて訪れたトーゴでの日々、信金マンとして悩んだ日々など)や、起業後に日本とトーゴで奮闘するスリリングな展開については、ぜひ著書『Go to Togo一着の服を旅してつくる』を読んでください!
ということで、トークは参加者を交えて、感想や自分の仕事などの話に。
特に、参加者の中には現役の学生や就活サポートに携わる方がいたことから、日本で画一化やシステム化が進む「シューカツ」について熱い議論が交わされました。
実際に、コロナ禍の影響で就職活動が難航する社会状況があり、中須さんの並み外れた(?)ストーリーに注目が高まって、学生からの問い合わせが増えているそうです。
出版のいきさつも
中須さんの著書『Go to Togo』を出版したのは、烽火書房(ほうかしょぼう)という出版社。出版社と言っても、出版社に勤務経験のある嶋田翔俉さんが一人で立ち上げた駆け出しの出版社で、実はこの本が出版第1号だそうです。
今回のトークイベントも、出版記念企画として著者の中須さんと編集者・発行人の嶋田さんが各地で開催しているイベントの一環とのこと。
「シューカツ」についての議論が展開する中、嶋田さんからも出版社立ち上げや『Go to Togo』出版のいきさつについて、お話を聞くことができました。
左側が烽火書房の嶋田さん
出版社の名前になっている「烽火(ほうか)」は「のろし」とも読み、昔、山などで隔てられた遠い場所まで、煙を上げて峰伝いに情報を伝達する手段として利用されたもの。情報を必要とする人に届けるという思いが込められているそうです。
嶋田さんは、中須さんのことを「誰かのために伝えようとしている人」と見い出して、「いかに具体的に地域に根付くことができるか、ローカルな顔が見える範囲でどれだけ豊かな生活を築けるか」という中須さんの挑戦に魅力を感じ、これまでのストーリーを本として形にすることを提案したそうです。
タイトルの「Go To」には、「行ってみないとわからない・やってみないとわからない」という意味が込められているそうで、「計画ありき」の対極にあるスタンス。
「誰かのために伝える」ことや「やってみないとわからない」は、そのまま嶋田さんの思いでもあり、出版社としての第一歩を中須さんと踏み出したことにもうなずけました。
はやく行くならひとりで、遠くへ行くならみんなで
予定の2時間を超えて盛り上がったトークイベント。このリポートでは書ききれない仰天エピソードもあり、またトークでは(ネタバレしないように)本の前段1/3ぐらいしか紹介されなかったこともあり、素敵な出版記念イベントだと感じました。
中須さんが、いつでも仲間づくりを大切にして、仲間に助けられながらピンチを乗り越えてきたことも印象に残りました。
そのスピリッツを象徴する言葉として、「はやく行くならひとりで、遠くへ行くならみんなで」というアフリカのことわざがあるそうです。お話を聞きながら、頭の中で繰り返しリピートされた言葉で、イベントの後も心に残りました。
AFURIKA DOGS
現在、中須さんは株式会社AFURIKA DOGSの社長として、次々と新しいプロジェクトや新商品開発を手がけているそうです。
この日のトークイベントでも、京都・西陣にある長屋型の宿泊体験施設「西陣ろおじ」の一角に直営店をオープンすることが発表されました(現在、準備中)。
直営店は、トーゴ出身で京都在住の仕立て職人がオーダーメイドで服をつくるブティック(土曜のみ営業)とのこと。クロスロードカフェでの展示会・商品販売は終了しましたが、気になる方は京都へお出かけの際、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
(取材協力:クロスロードカフェ)
[文&写真:マルコ@ECHO]