公開日:2020年12月31日
伊丹市民オペラの第35回定期公演の中止を受け、その代替として12月27日に伊丹アイフォニックホールで開催された「伊丹市民オペラ特別企画 コロナに負けるな オペラ・ガラコンサート2020」の模様をリポートします。
伊丹市民オペラは、プロの音楽家と伊丹市民オペラ合唱団、伊丹シティフィルハーモニー管弦楽団等による本格的なオペラ公演として、東リいたみホールを会場に毎年開催されてきましたが、2020年3月の第34回公演(演目:『アイーダ』)、2021年1月の第35回公演(演目:『ナブッコ』)ともに新型コロナウイルス感染症の影響により中止となってしまいました。
第35回定期公演中止の記事はこちら。
伊丹市民オペラは、市民が合唱やスタッフとして参加する形式のオペラ・グループとして国内最古参級(1985年に第1回公演を開催)の歴史があり、小都市ながら豊かな音楽文化を誇るまち伊丹を象徴する存在です。
世界各地で公演活動が中止となった2020年。その年末、伊丹市民オペラの長い歴史の灯(ともしび)をなんとか継続させたいという関係者の熱意により、特別企画のガラコンサートが実現しました。「コロナに負けるな」というタイトルにも強い意志が感じられます。
「ガラ」(gala)とは、フランス語で「特別な催し」「祝祭」を意味する言葉です。今回のガラコンサートは、通常のオペラ公演とは違い、過去の定期公演からハイライトとなる名曲を集め、ソリストがピアノ伴奏により歌い継ぐというスタイル。「祝祭」にふさわしい豪華なスペシャル・プログラムが組まれました。
2020年12月27日(日)
14:00開演
伊丹アイフォニックホール メインホール
※客席は1席ずつ間を空け、ホール収容人数の半数にて実施
プロヴァンスの海と陸/田中 勉
ハバネラ/高谷 みのり
ミカエラとホセの二重唱/森川 華世・小林 峻
花の歌/小林 峻
ミカエラのアリア/森川 華世
終幕の二重唱/高谷 みのり・小林 峻
妙なる調和/藤田 卓也
トスカとカヴァラドッシの一幕二重唱/山口 安紀子・藤田 卓也
歌に生き愛に生き/山口 安紀子
今の歌声は/高谷 みのり
ママも知るとおり/山口 安紀子
母さん、あの酒は強いね/藤田 卓也
プロローグ/田中 勉
鳥の歌/森川 華世
ネッダとシルヴィオの二重唱/森川 華世・迎 肇聡
乾杯の歌/全員
小林 峻(テノール)
高谷みのり(メゾソプラノ)
田中 勉(バリトン)
藤田 卓也(テノール)
迎 肇聡(バリトン)
森川 華世(ソプラノ)
山口 安紀子(ソプラノ)
井原 広樹
殿護 弘美
伊丹市民オペラ公演実行委員会/公益財団法人いたみ文化・スポーツ財団
伊丹市
2020年は、コロナ禍によりオンラインコンサートなどの試みが各地でなされました。しかし、今回のガラコンサートでは、やはり生(なま)の歌声・演奏に勝るものはないと改めて実感しました。
今回は、通常のオペラ公演を開催する東リいたみホールの大ホールではなく、より小規模なアイフォニックホールでの開催でしたが、そのかわりソリストの歌声をより間近で聴くことができ、歌や演技に込められた繊細な感情や、ホール全体に共鳴する力強い歌声を余すところなく堪能できました。
そして、我慢が続いた一年の最後に、色濃い人間ドラマを歌い上げるオペラの名曲を聴いて、心が解放される思いがしました。各地で公演中止が相次ぐ中、今回のガラコンサートを心待ちにしていた人が多かったことは、1階席のチケットが即日完売し、残る2階席も早々に完売したことからもうかがえます。
また、上演作品ごとに、今回の企画・構成をされた演出家の井原広樹さんから、作品・楽曲の解説があり、軽妙ながらもオペラへの情熱がほとばしる素晴らしいトークで、舞台に華を添えていました。
全ての出演者が揃いフィナーレを飾る「乾杯の歌」が高らかに歌い終わったとき、思わず「ブラボー」と叫びたくなるのをグッとこらえて(コロナ禍のため遠慮)、いつもより腕を高く掲げ拍手喝采を送りました。
今回、プログラム後半の冒頭に、伊丹市民オペラ公演実行委員会会長の橋本育子さんと、長年にわたり定期公演で伊丹シティフィルハーモニー管弦楽団を指揮されてきた加藤完二さんによる、トークコーナーが設けられました。
橋本会長が聞き役となり、伊丹市民オペラの”生き字引”と言われる加藤先生がこれまでの歩みを振り返りました。主な内容を以下に抄録します。
伊丹市民オペラを創設された桂直久先生(大阪音楽大学名誉教授、オペラ演出家)は、伊丹でオペラ音楽文化を育むべく、2014年の第28回定期公演まで伊丹市民オペラを牽引され、出演者の個性を大事にするあたたかい舞台をつくってこられました。
伊丹市民オペラは、若い声楽家の登竜門としての役割も果たしてきました。また、市民オペラ合唱団としての参加や、伊丹市少年少女合唱団としての出演を経験し、音楽の道に進んだ市民も数多くいます。その代表格が、今回ソリストとして出演された声楽家の森川華世さんです。
加藤先生が創立以来指揮をとる伊丹シティフィルハーモニー管弦楽団も、当時の矢埜(やの)伊丹市長から「オペラができるアマチュアオーケストラを伊丹でつくれないか」との打診を受け、1990年に結成されました。こうして、伊丹市民の音楽文化の重要な核として35年に及ぶ歴史を築いてきました。
1995年の阪神・淡路大震災では、いたみホールが崩壊するなど、伊丹市内でも深刻な被害が生じました。それでも、市民オペラの灯を消してはいけないとの思いから、翌1996年から3年間は伊丹アイフォニックホールで演奏会形式の公演を続け、いたみホール再建後の1999年3月には、復活した大ホールの舞台をオペラ『こうもり』で華々しく飾りました。
加藤先生はその時のことを「新しいホールを見たい市民のワクワクもあって超満員となり、熱気を感じた」と振り返ります。市民の熱気とともに伊丹市民オペラの公演も年々本格化していきます。
2015年の第29回公演からは、気鋭の演出家、井原広樹先生が伊丹市民オペラを引き継ぎました。加藤先生とは大阪音大でオペラ研究の道を共に歩んだ旧知の仲。本場イタリアでオペラを学ばれた井原先生に、伊丹でイタリアの風を吹かせてもらうことを期待して、とのこと。
加藤先生と橋本会長のお二人は、長い歴史を持ち日本を代表する市民オペラとして、これからも伊丹のまちとともに歩みたいと、トークを結びました。
このたび伊丹市民オペラ公演実行委員会では、伊丹市民オペラの活動理念に賛同・支援いただくサポート団体として「伊丹市民オペラ サポーター倶楽部〈tifosi〉』を発足し、会員を募集しているとのこと。
「tifosi(ティフォージ)」とは、イタリア語で”熱いファン”を意味するそうで、会員特典としては、チケットの先行販売、伊丹市民オペラニュースのメール配信、プログラム等への名前掲載(賛助会員、希望者のみ)、記念DVDのプレゼント(伊丹市民オペラの歴史がわかる非売品のDVD。限定100枚のため無くなり次第終了)などがあります。
入会案内など詳しくは、伊丹市民オペラ公式ウェブサイトでご確認いただくか、同実行委員会までお問合せください。
伊丹市民オペラ公演実行委員会(伊丹アイフォニックホール内)
TEL:072-780-2110(9:00~22:00)
※休館:水曜日、12月29日~1月3日
さて、伊丹市民オペラの次回公演となる第36回定期公演(2022年1月23日開催)は、ヴェルディの大作オペラ『アイーダ』です!
もともとは2020年3月の第34回定期公演の演目として予定されていましたが、コロナ禍で中止となり、幻となってしまいました。それがまた伊丹で上演されるということで、期待大です!
古代エジプトを舞台に、エキゾチックで壮大な時代絵巻が繰り広げられる、オペラの傑作『アイーダ』。チケット販売は2021年秋頃を予定しているとのことで、今から待ち遠しいですね。
Written by マルコ