公開日:2021年11月21日
11月7日(日)にアイホール(伊丹市立演劇ホール)で上演された『マクベス 釜と剣』を観てきました。劇団は、エイチエムピー・シアターカンパニー。
ちなみに『マクベス』についての事前知識はほとんどなし。
わたしはアメリカの高校に通っていたのですが、『マクベス』といえば国語の授業で読まされる定番作品。日本でいうと、国語で『枕草子』を読むような感じでしょうか。
同じくアメリカの高校でマクベスを読んだという妹と、どんな話だっけという話をしたのですが、「なんだっけ、きれいは汚い、汚いはきれいって有名な台詞があったような……?」「3人魔女が出てきてマクベスに何か言うんだよね」くらいの記憶。
むしろその時の国語の担任が、「ラップでシェイクスピアって新しくない?みんなでやってみようぜ!」みたいな先生で、だぶだぶの服を着せられ、Yo, Yo!とやらされて辛かった記憶くらいしか残っていないです。
そんな『マクベス』の内容をすごーく簡単に説明すると……、戦で手柄をあげたスコットランドの武将マクベスは、その勝利をダンカン王に報告に行く途中で3人の魔女に出会い、「お前は王になる」と予言されます。この言葉によってマクベスの心は揺れ、マクベスはマクベス夫人と共に王の座を奪うためにダンカン王を殺害。殺害は成功するが、ふたりはそれぞれ破滅の道に迷いこむ、といったような作品です。
先入観なく今回の作品を観たいと思い、あえて観劇後に原作の『マクベス』を読みました。そうすると今回の『マクベス 釜と剣』との違いがわかります。
原作では3人の魔女はあくまであやしいもの、マクベスをまやかすものとしての存在でしたが、今回は、当時盛んだった「魔女狩り」を逃れて森に逃げ込むしかなかった3人の女性として表現されています。ダンカン王が、世の中の不都合はすべて魔女のせいにして魔女狩りをして国民の鬱憤を晴らしてきた、と言う場面もあります。
そんな魔女たちが大切にしてきたのは、釜。かつて女たちが煮炊きをし子どもたちに食事を与えてきた大きな釜は、今はダンカン王に奪われ、討ち取った敵軍の首を煮込み、「王のしずく」と称し万能薬として戦士たちに与えられるというおぞましいことに使われています。
タイトルにつけられた「釜と剣」はまさに歴史の中で女性がつくってきたものと男性がつくってきたものを象徴していているように思います。
釜を使い食事を作り、子どもや家族に食べさせて家を守ってきた女性たち。剣を抜き戦うことで領地をひろげ名誉を求め、国を強くしてきた男性たち。
マクベス夫人の「わたしは父の娘、夫の妻、子の母親、名前はもう思い出せない」も原作にはないセリフです。原作でも彼女は、「マクベス夫人 (Lady Macbeth)」としてしか登場しません。
その一方で、ダンカン王を殺すことをためらうマクベスに「あなたはそれでも男なの!」「男ならやりなさい!」とマクベス夫人は繰り返します。
自分の名前すら思い出せない、そんな女性の悲しみとともに、男性なら強くあらなければならない、という男性の苦悩も描かれています。今回の作品では、シェイクスピアの時代から、変わらない双方の苦しみが表現されていると思いました。
観劇をしたのは4年ぶりくらいでしたが、舞台が終わり役者の方たちが去っていき、劇場が明るくなり、外に出るとふわふわとして、さきほどまでの非日常感とは裏腹に、いつもどおりの日常が広がっている、あの感じ。
あれはやはり観劇だからこそ味わえるものと思います。
小さい子どももいるしコロナのこともあり、最近はネットフリックスやオンラインライブもなど、家で楽しめるもので十分だなーという気持ちもありましたが、やはりその場でつくられる芸術の熱気、役者の方たちと向き合って過ごす濃密な時間は特別なものと感じました。
その場にいないと経験できない芸術である観劇。家から歩いて15分ほどのところにこんな非日常を経験できる場所・アイホールがある、この街はやっぱりいいなあと思いました。
こんな楽しみも、これからすこしずつ思い出していきたいと思っています。
大阪を拠点に活動する劇団。「エイチエムピー」は“ Hamlet Machine Project”の略。1999年にドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの『ハムレットマシーン』を上演するための「研究会」を結成。
その後、2001年から劇団として活動を始める。その実験的な舞台創作とリアリティを追及する手法が評価され、かなざわ国際演劇祭、大阪現代演劇祭〈仮設劇場〉WA、精華演劇祭、演劇計画2007「京都芸術センター舞台芸術賞」など、数多くの演劇フェスティバルに参加している。
「現代美術」とも称される舞台空間と俳優の造形力に定評がある。
(エイチエムピー・シアターカンパニーウェブサイトより)
2022年3月12日~13日上演予定
新作公演『堀川、波のつづみ』
原作:近松門左衛門『堀川波鼓』
改作:西史夏(劇作家)
会場:in→dependent theatre 2nd(大阪)
伊丹市伊丹2-4-1
TEL:072-782-2000
Written by なみま