コラム|カワセミさんのえほんのまわり<1> 『ないたあかおに』

公開日:2022年02月03日

ご縁がご縁を呼び、少しだけ絵本のお話を書かせていただくチャンスを頂戴しました。 ありがたいことですが、自分に務まるのか自問自答しました。

私は、歳を取った保育士です。

ですのでお声をかけてくださった編集部の方は「それならさぞかし絵本に精通しているであろう」と期待してくださったのではと思います。

でも実は、保育士としての歴はさほど長いわけではないのです。

女子大を卒業し何も考えず叔父の会社にコネで入り「腰掛け」と言われた年数で寿退社することは、当時そんなに珍しい話ではありませんでした。

ただひとつ珍しかったのは、上手に結婚生活を続けることができなかったことです。 そこで一人息子を連れて実家に戻りました。

その時声をかけてくれたのが、保育園を経営していた叔母夫婦でした。 さいわい子どもが嫌いではなかったので、実家から和歌山の叔母の園まで月に1度お手伝いに行くことになりました。

「そろそろ和歌山に住んで、本格的に働かない?」と言われたものの、ずーーっと専業 主婦だった私には資格がありません。

それなのに、のこのこ出かけていくのは保育士さんや何よりも叔母夫婦に申しわけがないと思い、保育士資格を取ったのが不惑の40歳。

結局家族の事情もあり、叔母の園にはいかず実家近くの保育園に就職して今日にいたります。

そんな私ですので「ザ・保育士」という目線よりも、それにプラスして、専業主婦目線と結婚に失敗しちゃった目線とお祖母ちゃん目線からものが書けるかと思いお引き受けしました。

「なあんだ絵本の話ではないのか」とお思いの方、ごめんなさい自分を語ってしまって。

ではひとつ、絵本のご紹介を。

『ないたあかおに』作:はまだ ひろすけ

『ないたあかおに』作:はまだ ひろすけ(偕成社)

色々な方が挿絵を描かれています。

私が持っているのは、いけだたつおさんのものですが、なんと『YAWARA!』『20 世紀少年』を描かれたあの漫画家、浦沢直樹さんバージョンもあります。

『ないたあかおに』を最初に選んだのは、これを読むと息子が必ず泣いたからです。

小さな握りこぶしで瞼をこする姿がいとおしくもあり、「ここが彼の琴線か」という ちょっとした発見もありました。「読む」ことと「読んでもらう」ことの違いも、あったのかもしれません。

この絵本、作者40歳の作品です。品格ある内容と、何よりそのゆったりとした文章が魅力です。

鬼の乱闘シーンも。(以下、抜粋)

「あおおには、そこのとぐちにとびこんで、 めをひからせてたちました。 びっくりぎょうてん、おじいさんとおばあさんはすぐに、 はだしで、にげていきました。

ふたりをちゃんと にがしておいて、あおおには、 つぎには、そこらにあるものを、てあたりしだいになげました。

(中略)

「やい、このやろう。」 あおおにのかたをつかまえ、こぶしを あげてあかおにはともだちおにの あたまをこつんとうちました。」

人気の「鬼滅の刃」「進撃の巨人」など怖い鬼や巨人が出てくるお話は、小さな子ど もでも簡単に見ることができます。

でもそこに触れる前にこんなにのんびりとした美しい本を手に取ることで、ナイーブな心がより一層複雑で豊かなものになるかもしれません。

豊かになるのは、子どもだけではないのですけれどね。

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