公開日:2021年03月01日
伊丹の情報が集まる「クロスロードカフェ」の壁で2月17日から開催されている写真展「Viva Musicaーヴィヴァ ムジカー」。
その一角に、楽器をモチーフにしたオシャレなアクセサリーが販売されています。
楽器の写真が沢山飾ってある中で、楽器のアクセサリーが売られている。
とても細かく、繊細な作品です。
楽器の細部まで観察しないと作れない、クオリティ。
これだけ見たらなにも違和感はないんですが、気になるのはそのアクセサリーの中に紛れ込んだ、マウスピースとおぼしき楽器の部品たち。
え?
これも、アクセサリーなの???
どこにつけるんだろう。
と思って恐る恐る手に取ると、よもやの、本物の楽器のパーツにダイヤやルビーが埋め込まれているではありませんか。
正気でしょうか。
いや、大真面目で、正気で本気なんです。
大阪フィルハーモニー交響楽団の第一ホルン奏者を20年以上務めた池田重一氏の息子として生まれた池田泰宏さんは、子供の頃から一つ決めていたことがありました。
「オレは、音楽の道には絶対に進まない」
当たり前に吹奏楽部に入るだろうと思っていた周囲の期待を華麗にスルーし、お父さんが有名すぎたため吹奏楽部の先輩たちに囲まれ、入部を誘われても全力で振り払い、中学時代は頭を丸めて野球部へ。
その後も野球のみならずテニスにもいそしみながら、スポーツ街道を進み続けた泰宏さんは、ホルンはおろか吹奏楽の「す」の字にすら、かすりもしない人生を歩みます。
その後、京都造形芸術大学(現京都芸術大学)のインテリアデザインコースを卒業。
設計事務所で勤務したのち、若干26歳で自身のブランド「ASHIOURY(アシュリー)」を創業。
プラチナ、ゴールド、各種宝石を扱いながら、完全受注生産のフルオーダーアクセサリーを創り、インターネットで販売を始めた頃、突如、現在大阪音楽大学の教授であるお父様から、ひとつのオーダーが入ります。
「楽器に宝石を埋め込んで欲しい。」
どうやらこのお父様。
クラシック音楽のトッププレイヤーとしてホルンの音色を追求するあまり、小さな宝石を、あろうことか楽器本体にセロハンテープで貼り付けては、音色の違いを研究していたとのこと。
父、心の声「ほうほう、ダイヤは音が引き締まるな……」「ルビーは……マイルドな音になる。」
いやいや、そもそもなんで家に宝石がゴロゴロ転がってるんでしょうか。
泰宏さん「あ、もともと父親の趣味でね。よく山に入っては、水晶とか宝石の原石を採りに行ってたんですよ。」
私「いや、カブトムシ取りに行くノリで言わないでください。」
泰宏さん「あはは!!確かにそんなノリで宝石取りに行ってたかも!!」
ここが原点です。ここから全てが始まります。
吹奏楽は絶対にしない、音楽の道には絶対に足を踏み入れないと、頑なだった泰宏さん。
しかしながら、歴史を遡ると、幼少期にはお父様とカブト・・いや「宝石」を採りに行っていた。
相変わらず楽器は1ミリも演奏できないけど、金属と宝石を扱うことはできる。
プロのジュエリーデザイナーとして自社ブランドまで立ち上げた身として、父親が不格好にも(教授、ごめんなさい)セロハンテープなんかを使って宝石と金属を合体させてしのいでいるのを聞いてしまった。
流石に泰宏さんはもう大人です。
父親に反発して丸坊主にする年齢じゃありません。
セロハンテープを駆使する父親の姿を見て、さすがに放っておけず、(ここは華麗にスルーせず)ホルンのネジパーツに宝石を埋め込んだ加工を、即日やってみせました。
世の中のどこにもない、「サウンドストーン」の誕生の瞬間です。
ジュエリーデザイナーである泰宏さんが完璧な「宝石の埋め込み」をやってのけたその日から、次々とサウンドストーンのバリエーションは増え続けます。
サックスのパーツにエメラルドを埋め込み。
トロンボーンのパーツにタンザナイトを埋め込む日々。
タンザナイトってなんやねん、と思った方……いらっしゃいませんか?
私も激しく思いました。
ちなみにタンザナイトとは、一見するとブルーサファイアと間違えてしまうほど、深い青の輝きが印象的な希少性の高い宝石です。
私はサックスを吹きますが、楽器の音色というのは、楽器本体の材質やマウスピースの種類、ストラップの形ひとつでも変化します。
一箇所をゴールドメッキのパーツに変えるだけで音色は明るくなり、シルバーメッキにすると重厚感が出る。
ここに、吹き手のスキルと身体の特徴が加わるんです。
何年も何年も鍛錬を積み、自分だけの音色を追求する、自分にしか出せない音を目指し続けるのが「管楽器奏者」というもの。
それなのに、ああそれなのに。
宝石を埋め込むだなんて。
しかもこれを開発したのが、国内トッププレイヤー、トップホルン奏者と、若きジュエリーデザイナーの親子だなんて。
山に採りに行ってたのがカブトムシだったら、こうは行きません。
学生時代の泰宏さんが従順に吹奏楽を始めていたら、確実にこの未来はやってこなかったでしょう。
ワクワクしませんか?
宝石を埋め込む楽器の種類、埋め込む場所、埋め込む石の種類によって、何通りもの音色の変化が生まれる「サウンドストーン」の可能性を、楽器メーカーが放っておくわけがありません。
三木楽器、ドルチェ楽器を始めとする大手楽器メーカーで取り扱いが開始され、各地で試奏・販売が可能に。
セロハンテープでスタートしたタイミングからわずか2年足らずで、現在国内で17の企業・店舗が取り扱いを始めていますが、もはや楽器メーカーが飛びつく品質であることは間違いなし、実力は証明済みです。
2021年現在。
一つ一つ手作業で埋め込む宝石加工代金がわずか「9,000円」という、どう考えてもぶっ飛んでいる価格設定でスタートダッシュを決めた泰宏さん。
今後はクラシックのみならずジャズやポップス、ファンクやフュージョン界隈のプレイヤー達がこの「サウンドストーン」の存在に気づき、またたく間にこの技術は海外に輸出されるはずです。
「音楽×ジュエリー」という父と息子のシンクロが、ここ伊丹の地から世界に旋風を巻き起こす日が楽しみでなりません。
最後になりましたが、国内屈指の音楽業界専門の写真家、正木万博氏は、何を隠そう国内トッププレイヤーであるホルン奏者の池田重一氏と同級生だそうです。
まさかのつながり。
なにやら30年来の旧友の若い息子が、一生懸命自分でデザインしたアクセサリー作ってるみたいだから、楽器関連の小物を中心に写真展の隅っこに並べてみてもいいよ、と正木氏の方から声をかけてみたところ……
売れる売れる、どんどん売れる、泰宏さんのアクセサリー!!!
それもそのはずです。
楽器好き、音楽好きの感性をくすぐりまくる「楽器のドアップ写真たち」のすぐ隣に、これまた楽器好きにはたまらない、精巧に造り込まれた「楽器の小物」が並んでるんです。
正木氏「そんなに売れるとは思ってなかったんだけどな。僕の作品より、みんなこっちをガン見してる。」
そんな冗談も飛び交いながら。
近い将来、正木氏がドアップで撮影する楽器達に、泰宏さんが埋め込んだサウンドストーンがチラリと映る日がやってくるでしょう。
こんなに細かなところまで完璧に撮影できるのは、世界中で正木万博氏ただひとりです。
世界のどこにもないサウンドストーンの開発者である池田親子と、正木万博氏の写真の相性は、言わずもがな抜群なんです。
運命や宿命が、またここでひとつ繋がった瞬間。
音楽と写真とジュエリーという、普通に考えたら別の業界とも思えるアートの世界が、こんなにも美しくコラボレーションする形を、私は他に知りません。
閉塞感や分断が進む今の時代に、温かな繋がりと明るい未来を見せてくれたお二方に、感謝の意を込めて。
兵庫県の神戸や伊丹を拠点に活動しているオーダージュエリーブランドASHIOURYは、オンラインでのやり取りをメインとし、インターネットを通じて全国のお客様から受注生産を行う。
プロの演奏者と共に開発した「サウンドストーン」は、大手楽器メーカーの実店舗で全国展開中。
池田泰宏氏 Instagram/Facebookページ
Written by Miwa Ueda