公開日:2021年02月28日
伊丹の情報が集まる「クロスロードカフェ」の壁は、イチオシの画家や写真家、アーティストたちの作品が飾られれるギャラリーとして使われていて、何気なくコーヒーを飲みに入ったお客さんが、ふと目を奪われるアート作品がいつもそこにあります。
ふらっとゆるっと立ち寄れば、「いい感じ」のアートに触れられる場所。
ここで今開催されているのが、日本屈指の音楽業界専門写真家の正木万博(まさき ばんぱく)氏の写真展「Viva Musicaーヴィヴァ ムジカー」。
東リ いたみホール(伊丹市立文化会館)主催の市民企画公募事業「DOING!DOING!2021」に選ばれ、この「Viva Musica」を1Fエントランスホールで大きく展示していたところ、作品の数々を目にしたクロスロードカフェのオーナー荒木氏の目に止まります。
「このあと、予定ある?この写真、そのままウチの店に全部持ってきてギャラリーしようや。」
「このあと予定ある?」
という、普通の「ギャラリー開催のオファー」とはかけはなれた「飲みに誘うノリ」で決まった、Viva Musica@クロスロードカフェ。
※通訳すると、「このあと」というのは、東リ いたみホールの展示会の開催期間が終了したあと。「予定ある?」というのは、この作品達をどこかに展示するスケジュールになっているか?の意。
今回取材した私(Miwa Ueda)は、「普通じゃないもの」が何よりの好物なので、この写真展が開催されるきっかきなった「常識はずれ」の運命的な出会いにも心躍りますが、スペイン語で「音楽バンザイ!」と名付けられたこの「Viva Musica」内の作品群もまた、十分「普通」とはかけ離れています。
どこが普通とは違うのか、どこがどう魅力的なのか、これをお伝えできればと思います。
正木万博氏の作品は、一見すると楽器の「躍動感」や「臨場感」を表現しているようでいて、実はそれだけじゃありません。
松任谷由実さんなどメジャーアーティストのツアーに同行し、国内外の数々のコンサートステージを撮影し続けた30年間で、彼が「プロの商業カメラマン」として見つけた「普通のカメラマンにはない視点」が、全てこの「Viva Musica」に詰まっていました。
「近すぎる」
そう、とにかく近すぎるんです。
オーケストラや吹奏楽のステージで使われる、トランペットやサックスなどの管楽器、バイオリンやコントラバスなどの弦楽器、その他打楽器やピアノを取り上げているのはいいとして、まず楽器奏者の顔は写さない。なんなら、楽器の全体像すら全部写さない。
ここに、写真家正木万博氏の”希少性”が光ります。
「楽器は、こんなにも美しい」
これを表現したい画家や写真家、楽器職人たちが世界中にどれだけ存在するでしょう。
私はサックスプレイヤーとして10年以上生きてきましたが、プレイヤーとて同様。楽器って、とにかく美しいんです。
正木氏は、この楽器の美しさを捉えたいがために、本番前に会場入りし、なんと「リハーサル中」を狙ってステージに乗り、楽器奏者の真横や真後ろに回り込み、ステージ中を動き回りながら、ひたすらシャッターを切り続けるんです。
正木氏はおっしゃいます。
「奏者との信頼関係がないと絶対できない撮影方法なんです。動いていい範囲も距離も分かってくれている、この人は邪魔じゃない、と思ってもらわないと、この距離感では撮れない。」
徹底して、奏者ファーストを貫く正木氏。
お客さん目線ではありえない、指揮者目線でもない、それでいて奏者本人の視点でもない独特のアングルは、例えるならば「隣の奏者が真横で楽器を見た距離感」です。
ただ、本来オーケストラや吹奏楽の本番中に、真横にいる奏者の手元やキーの配列をじっと見る奏者はいません。
演奏に全集中している時にそんな余裕はありません。
つまるところ、「世界で誰も見たことがない」「誰にも見られるわけがない」瞬間を、アート作品として形にしている。
「お見事」としか言いようがありません。
やっぱり普通じゃありません。
作品全てがとにかく「近い」ということは一目瞭然ですが、もう一つ「普通じゃない」所があります。
それは、使用されている『カメラ』です。
プロのカメラマンならずとも、本格的にカメラをやろうと思ったら「まずはNikonかCanonのカメラを手に入れろ」というのが定石だと思っていたのに、正木氏は「オリンパスのミラーレス一眼」をメイン機として使用しています。世間では「家庭用のちょっといいカメラ」くらいのイメージを持たれているのが、この「ミラーレス一眼」。
ここに関しては、あまりにも不思議だったのでご本人に直接聞いてみました。
正木氏「このカメラを使おうと決めて、レンズとかもろもろ全部そろえたときは、そりゃもう周りのカメラマンたちに驚かれましたよ。何考えてんだ!!って……(爆笑)」
本当に、ちょっと意味がわからないのでもう少し詳しく。
正木氏「でもこのカメラ、シャッター音が完全に消せるんですよ。近くでカシャカシャ鳴ってたら、演奏してて邪魔でしょう?」
なんと!
ここでも「奏者ファースト精神」が炸裂。
正木氏「あとね、僕、演奏者と同じタイミングで息継ぎしたり、下手したら息止めながら撮影してる時もあって、集中したら息するの忘れるんですよ!!!(大声)」
いや、息はしてください。
正木氏「それと、このカメラちっちゃくて軽いんで、ステージの上を動き回れる!(歓喜)」
なるほど。
完全に理解しました。
シャッター音を消せるから演奏者の気が散らない、コンパクトなサイズ感だからステージ上を駆け回ることができる。
正木氏が撮りたい写真を完璧に撮るためには、このカメラが必要だったんです。
普通のカメラマンにはない視点で、希少価値の高い写真を撮るためには、商売道具選びから常識を覆す必要があった。
ますます、お見事です。
今、コロナ禍によって様々な芸術や音楽、イベントが制限されています。
行動範囲は制限され、生活様式も様変わりしてしまって、どんどん身動きが取れなく日々。
そんな中、写真家正木万博さんは胸を張ってこうおっしゃいます。
「たくさんの人々が不便を感じながら、我慢と辛抱をし続けて息苦しさに疲れている今こそ、文化や芸術、娯楽による楽しさや感動が、心のイガイガを減らしてくれるのではないでしょうか。人間が生きる喜びや楽しみの本質は不要不急と言われるものの中にいっぱい詰まっているのだと思います。今こそ芸術が、必要で緊急です。」
どこまでもアグレッシブでクリエイティブな正木万博氏の写真展は、クロスロードカフェにて3月14日まで開催されています。
音楽や楽器、写真に詳しくない方でも、十分見ごたえのある写真ばかりです。
ぜひ足を運んでみてください。
これら素敵な写真達一つ一つをお買い求めいただくことも可能ですが、一つだけじゃなく全部手元に持っていたい!という方に向けて、「正木万博の世界観」がギュッと詰まったフォトブックの販売が、2月28日(日)からクロスロードカフェ内でスタートしています。
こちらも是非チェックしてみてください。
次の記事では、ギャラリー内で販売されている楽器をモチーフにした素敵なアクセサリーのデザイナー兼製作者である、池田泰宏氏の魅力に迫りました。
1965年兵庫県伊丹市生まれ。
舞台写真を専門に撮影するカメラマンとして2社合わせて約30年間勤務したのち、2014年に独立してアートリンク社を設立。
北海道から沖縄まで全国のコンサートホールでの撮影に加え、海外でのコンサート撮影も多数。
また、松任谷由実のコンサートツアーでは、2007年「SHANGRILA III」、2011年「Road Show」でライブフォトグラファーとしてツアーパンフレットの撮影を担当。「SHANGRILA III」ではライブDVDのジャケット写真にも採用される。
最近最も多くレンズを向けているのは吹奏楽、マーチングのジャンルであるが、その他オーケストラ、ピアノ、オペラ、バレエなどのクラシック系音楽の撮影にも力を注ぐ。
2019年、大阪と東京で写真展「Viva Musica!」を開催。
2020年8月と12月、福岡で写真展「Yell!」を開催。
2121年1月、東リ いたみホールの市民企画公募事業「DOING!DOING!2021」に採用され、写真展「Viva Musica!」を開催。
正木万博氏が代表を務める「Art Link」のウェブサイトはコチラ。
Written by Miwa Ueda