歌い続けて半世紀【第3話〜伊丹市少年少女合唱団設立50周年記念特集〜(最終回)

公開日:2020年03月31日

【第3話】物語はつづく

ITAMI ECHOでは、今年度で設立50周年を迎えた伊丹市少年少女合唱団(以下、合唱団)の活動を紹介する特別企画記事を合唱団のご協力を得て掲載してきました。

伊丹市少年少女合唱団は、伊丹市内在住の小学3年生から高校3年生までの約60名の団員で構成され、「歌は心のハーモニー」をモットーに、団員出身の指導者(合唱指揮2名、ピアノ伴奏2名)とともに伊丹アイフォニックホールを本拠地として活動しています。

第1話「昭和から令和まで、時代を超えて響く心のハーモニー」では、合唱団が誕生した50年前(1969年)に焦点を当て、設立当時の合唱団の様子や、その頃の伊丹の街の雰囲気などを紹介しました。

続く第2話「受け継がれる音楽教育の道」では、合唱団を長く率いてきた故・菱本清子(ひしもと きよこ)先生や、現在の指導者の先生方にスポットを当てながら、合唱団の音楽教育活動について紹介しました。

最終回となる第3話「物語はつづく」では、現団員の活動、特に合唱団の最大の特徴である「合唱ミュージカル」の創作過程に焦点を当てながら、その活動の魅力に迫ります。

合唱団の伝統

第2話で紹介した菱本先生の時代から、一つでも年上の先輩には敬語で話すなど、挨拶や礼儀を大切にしてきた合唱団。裏返せば、先輩にとっては、後輩の面倒をしっかり見ることが求められるとともに、そうした信頼関係をベースに団員の心を一つにまとめることにも責任を負っています。

常に緊張感を保ちながら、自分たちの音楽を主体的につくり上げていく心を育む仕掛けとして、50年の活動の中で培われた伝統です。

合唱ミュージカルの創作

合唱団にはもう一つ大切な伝統があります。それは、3月の定期演奏会の目玉として、自作自演の「合唱ミュージカル」を上演すること。

「合唱ミュージカル」とは、劇場や映画の名作ミュージカルをもとに、合唱やソロ(独唱)を中心として、演技やダンスを織り交ぜ、約1時間の物語として再構成したミュージカルのこと。音楽は指導者の先生が担当し、全編がピアノで演奏されます。合唱団オリジナルの上演スタイルとして、1980年の第3回定期演奏会から40年もの間、大切に受け継がれてきました。

第41回定期演奏会 2019年3月17日(日)の集合写真。合唱ミュージカル『アラジン』の衣装で

高校2年生が中心となって、まず演目の選定から始まり、全体の構成、台本作成、演出、振付、衣装や大道具・小道具の制作にいたるまで、自分たちで考え決断しながら、1年間かけてミュージカルをつくり上げていきます。同時に、高校2年生はそれぞれ主役級の役を演じますので、まさに「自作自演」というわけです。

合唱ミュージカルは合唱団を最も特徴づける活動で、実際に、この舞台に憧れて入団する団員も多いそうです。ですので、団員たちは自分たちが高2なったら何を演じようか、期待と夢をふくらませながら学年を上っていきます。

高校2年生のプレッシャー

合唱団での活動期間は小3から高校卒業まで、最長で10年に及びます。ただし、高校3年生は受験準備に入るため、実質的に最高学年として団員を率いているのは高校2年生です。

さて、設立50周年という節目にたまたま巡り合わせた今年度の高校2年生の7名。数年前から先輩たちに言われて自覚はしていたものの、合唱団の歴史に恥じないように・・・と大きなプレッシャーを感じながらのスタートだったそうです。

長い道の始まり

ミュージカルの創作が本格的に動き出すのは、高校1年の冬の合宿。そこで、翌年度の定期演奏会の曲目やミュージカルの演目について、高校1年生と先生方の間で話し合いが始まります。4月になって代がわりする頃には、大まかな内容が固まります。

今年度、記念すべき年にふさわしい演目として選んだのは『美女と野獣』でした。

ミュージカルの名作『美女と野獣』

フランス民話をもとにした『美女と野獣』という物語を一躍有名にしたのは、1991年に制作されたディズニーの長編アニメ映画です(日本での公開は翌1992年、リメイクした実写版が2017年に公開され再ヒット)。

全編に歌と音楽をちりばめたディズニーのミュージカル映画を代表する名作で、米アカデミー賞の作品賞にノミネートされ(アニメ映画史上初)、アカデミー賞の作曲賞・歌曲賞を受賞しました。世界各地で劇場ミュージカルとしても上演されるなど、音楽性の高さには定評があります。

特にテーマ曲の「美女と野獣」は、シャンデリアがきらめくお城の大広間でベルと野獣が円舞を踊る印象的なシーンで歌われ、愛のバラードとして有名な曲です。

1756年にフランスで出版されたボーモン夫人版の『美女と野獣』をもとにした絵本(2004年 岩波書店、絵:ビネッテ・シュレーダー、訳:ささきたづこ)

演目選定の決め手になったのは、『美女と野獣』がハッピーエンドの物語ということでした。高校2年生たちが選定にあたり重視したのは、自分たちの学年のカラー。浮かんできたキーワードは「楽しむこと、みんなを盛り上げること、ポジティブ、楽観的」であり、それならやはり喜劇を選びたいと意見がまとまったそうです。

あらすじ(2019年度・合唱ミュージカル版)

あらためて、簡単にあらすじを紹介すると・・・

舞台は18世紀のフランス。物語は、あるお城のわがままな王子が魔女の魔法により野獣に姿を変えられるところから始まります。同時にお城にも魔法をかけられ、使用人たちは食器や家具などに姿を変えられました。王子が本当に愛し、愛されることを知れば魔法が解けるのですが、果たして野獣を愛する者などいるのでしょうか。

一方、美しい町娘のベルは父モーリスと2人暮らし。本や知性を好むベルは乱暴者のガストンの求婚を断り、町では変わり者と言われます。ある夜、モーリスが隣村へ向かう途中、森の中で道に迷い、野獣が棲む古城にたどり着きます。帰り際にベルに頼まれたバラの花を持ち帰ろうと城のバラを摘むと、野獣の怒りを買って城に幽閉されてしまいます。

帰らぬ父モーリスを探すベルは、森の中の古城にたどり着き父を見つけ出します。父を解放する身代わりとしてベルは城に残り、野獣を見て絶望します。しかし、食器や家具に姿を変えた使用人たちは、ベルに魔法を解く希望を見て、ベルをお客さまとしてもてなします。ベルと野獣は次第に心を開き、愛の芽ばえを感じる中、物語は思わぬ方向に大きく展開していきます・・・。

物語の舞台をつくる

演目が決まると、次は台本づくりです。高校2年生たちは、時にはカフェに集まり長時間に渡って議論や作業をすることもあったそうです。映画を参考に全員で手分けしてセリフを書き出した後は、壮大な物語を約1時間に収めるため、言葉を削り、意味を調べ、また削りの繰り返し。夏合宿には台本を配りたいと、ゴールデンウィークには集中して進めたそうです。

台本の形が見えてきたところで、次は振付や衣装、小道具・大道具、舞台演出など、様々なことを考えなくてはなりません。振付は、これまでの「合唱団らしい」ものとは一線を画すよう意識したとのこで、プロのダンス動画を見るなどしたそうです。衣装も、小道具を持たせなくても衣装だけで役が分かるようにしたり、魔法が解けるシーンを衣装でどのように表現するか等々、育成会のお母さん方にもアドバイスをもらいつつ、一つ一つの課題をクリアしながら進めていきました。

キャスティング

主要な役を演じる高校2年生・1年生の配役は、実際のセリフを読んだ上で、役柄との相性や演技力などを先生方が審査するオーディション方式で決まります。また、合唱での出演がメインとなる中学生以下の配役は、高校2年生が決めていきます。

『美女と野獣』のキャスト(配役)は次のとおり決まりました(※2020年3月時点)。

キャスト

高校2年生

ベル(主人公の町娘):村上さん
野獣(王子/魔法により野獣の姿に) 橋さん
ルミエール(お城の給仕頭/燭台):宮崎さん
コグスワース(お城の執事/時計):森田さん
ポット夫人(お城のメイド頭/ティーポット):橋本さん
チップ(ポット夫人の息子/ティーカップ):結城さん
モーリス(ベルの父親):永野さん

高校1年生

ガストン、ガルドローブ、プリュメット

中学生、小学生

ルフウ、本屋、パン屋、町の人、3人娘、酒場の人、ガストンの手下、お城の人、合唱隊

役づくり

さて、役作りにはどのように取り組んだのでしょうか。高校2年生の7人(全員が女子)に聞いてみました(取材日:2月15日)。アプローチはそれぞれ違い個性が感じられますが、それぞれ悩みながら役づくりをしてきたことがうかがえます。

<ベル役:村上さん>

私はこれまで女性の役をしたことがなくて、そうした立ち振る舞いが分かりませんでした。「ベルを演じよう」と思って取り組むと、先生方から「それはちょっと違う」と言われたり。でもある時、「あぁ、こういうことか」と気付いたことがありました。それは、私が無理にベルになろうとするのではなくて、あくまで自分は自分のままでいながら、ベルがいた場所や思ったことなどを自分が同じように感じて、その時の感情で演じることができれば良い、ということです。今はそういう風に演じています。

<野獣役:橋さん>

私は、山崎育三郎さん(『美女と野獣』実写版(日本語吹替)で野獣を演じたミュージカル俳優)を参考に、どうやったら自分がカッコよく見えるかということを考えました。山崎さんを真似したようにはなりたくないけど、良いところを自分のものにしたいと思いました。

<ルミエール役:宮崎さん>

私は、自分でルミエールのプロフィールを作ってみました。誕生日は何月何日で、背丈や髪の長さなども想像して、こういう見た目の人なら、こういう風に動きそうだとか、自分なりにイメージを作りました。見た目はかっこいいけど、浮気性で軽かったりダメなところもある、でも憎めない感じ、という具合に。

<コグスワース役:森田さん>

コグスワースは真面目だけど、おっちょこちょいなところがあって、そうしたところがみんなに愛されるところ、というイメージで演じています。自分としてはここを表現したい!と思うところは、お客さまにも伝わるように大きく表現することを意識しています。

<ポット夫人役:橋本さん>

私はこれまで女の子とか幼い役が多かったので、チップのお母さん役というのが難しくて、周りの人を真似てみても何か違うなと感じていました。そんな中、一度休んだ時に親戚のおばあちゃんがお見舞いに来てくれて、その時にこういう感じなのか!とつかめたんです。元々思っていた像とは違いましたが、いざやってみると先生からも良いと言われて、あーこれだと思いました。

<チップ役:結城さん>

私は、昨年の『アラジン』でもアブー(小ザル)役で、ちょこちょことした動きが多い役でしたが、今回はまた全然違うと思ってもらえるよう、意識して演じています。チップは小さい子供の役ですが、それを小学生ではなく高校2年生の私が演じた方がもっとカワイイと思ってもらえるように、家でも家族に観てもらいながら練習しています。

<モーリス役:永野さん>

初めは、私がお父さん役というのがしっくり来ませんでした。どうがんばっても、おばあさんじゃないかって(笑)。役のイメージづくりに参考になったのは、昨年の『アラジン』で先輩が演じたジャスミンの父王の役です。ディズニー映画でも同じ声優さんが演じていますし。迷いながら役づくりしていますが、その日の相手の演技に合わせて演じている部分もあります。対話が多いので、あまり自分一人で演技を固めすぎないように注意しながら、その場その場の臨場感を大切に、考えながら演じています。

悩みながら成長していく

ミュージカルづくりは、これまでの活動で学んできた音楽、表現、団体活動の総仕上げです。舞台である以上はお客様に感動を与えたい。そう思って、物語に込められたメッセージについても考えを巡らせてきました。

<ベル役:村上さん>

物語の中で、ベルは恐怖を抱いていた野獣を最終的には愛することになります。「愛」という言葉は、世間一般では「きれいごと」のように言われますが、野獣の心を動かす力も秘めています。物語の中に「あきらめなければ、人は変わることができる」というメッセージが込められていると思います。このミュージカルを観ていただく方に、無理だとか、ただのきれいごとだとかあきらめている様なことでも、やっぱり頑張ってみようと思っていただけたらうれしいです。

<チップ役:結城さん>

魔法にかけられて、もう人間には戻れないと思うときでも、お城の人たちがあきらめずに希望を持って、ひたむきに生きる姿や勇気を見せられたらいいなと思います。

高校2年生のひとりひとりが役づくりに悩みながら、同時に舞台全体のことも自分たちで考え、決断していかなければなりません。自分たちが率先しなければ何も進まないという環境の中で、自分たちなりの答えを見つけ出し成長していきます。

新型コロナウイルスによる活動休止

定期演奏会まで残りひと月を切った2020年2月末、新型コロナウイルス対策のため全国の学校に休校要請が出され、伊丹市内の学校も3月3日から春休みまでの一斉休校となりました。合唱団の活動も休止となり、3月22日に予定されていた設立50周年記念の第42回定期演奏会は一旦中止のうえ、延期が検討されているとのことです。

1995年の震災の直後でも開催してきた定期演奏会が中止されるのは、50年の合唱団史上初めてのこと。1年前から練習や準備を積み重ねて来た団員の努力を知るだけに、運営を担う育成会や指導者の先生方にとっても苦渋の選択だったと思われます。

何より、高校2年生の7人が受けたショックは大きかったことと想像しますが、これまで1年間に渡って団員を率いてきた経験は、少なからず7人を成長させ、自信にもつながっていることと思います。「あきらめない」「希望をもつ」という『美女と野獣』のメッセージと重ねつつ、最後にはハッピーエンドの舞台を演じられるよう祈るばかりです。

物語はつづく

これまで3回にわたり、伊丹市少年少女合唱団のご協力を得て、2019年度に設立50周年を迎えた合唱団の歴史やこれまでの活動を振り返る特別企画記事をお送りしてきました。

設立時から掲げてきた合唱団の目的は、「合唱を通じて豊かな情操を養うとともに、異年齢集団の中で社会性や協調性を育むこと、子ども文化の創造を図ること」です(第1話)。また、設立当初から合唱団を長く率いてきた菱本先生は「最高の音楽を共に創り上げていく思い出の中で、人間として生きていく一番大切な心が培われていく」という言葉を残しています(第2話)。これらの思いが、現在の活動の中にしっかりと息づいてることをお分かりいただけたのではないでしょうか。

今年度の高校2年生たちの物語はもう少し続くことになりそうですが、1年また1年と世代交代を繰り返しながら、これからも先も新しい物語がつくられ、受け継がれていきます。

「きらら秋の音楽会」への出演(2019年10月27日(日)、きららホール)

伊丹市少年少女合唱団の卒団生の中には、プロの声楽家やミュージカル俳優として活躍している方もいれば、仕事や趣味など何らかの形で音楽や芸術に関わっている方も多くいます。団員の家族などの関係者も含めると、半世紀に及ぶ音楽教育活動を通じて、伊丹市民に数多くの音楽愛好家を生み、伊丹の市民音楽文化の一翼を担ってきたと言えるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの影響で数々の演奏会や舞台が中止される中、文化・芸術の衰退を案じて、次のような言葉を目にするようになりました。「文化・芸術活動は水道の蛇口のようにはいかない。一度閉めると、再び蛇口を開いても、同じように水が出るとは限らない。」

「きらら秋の音楽会」で歌った「ありがとう野菜」(『ひざっこぞうのうた』より)では、野菜のプラカードを使って楽しく演出(2019年10月27日(日)、きららホール)

歌い続けて半世紀。これからも市民の皆さんに、伊丹市少年少女合唱団が歌い継ぐ物語を応援いただければと思います。

取材・記事執筆にあたり、ご協力いただいた合唱団関係者の皆様、どうもありがとうございました!

(おわり)

伊丹市少年少女合唱団公式サイト・ブログ等

伊丹市少年少女合唱団 公式ウェブサイト(50年間の沿革など詳しい情報を掲載)

伊丹市少年少女合唱団 公式ブログ(日々の活動記録を投稿)

伊丹市少年少女合唱団 公式Facebookページ(日々の活動記録を投稿)

活動紹介番組

ケーブルテレビ局ベイコムで2020年1月6日に放送された伊丹市広報番組「伊丹だより」で、伊丹市少年少女合唱団の活動の様子(コンサートや練習風景、指導者・団員・OBへのインタビュー等)が紹介されています。

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