リポート|伊丹市立美術館「生誕140周年 熊谷守一展 わたしはわたし」

2020年07月10日

伊丹市立美術館では、熊谷守一展が会期を変更して開催されています(6月23日〜7月31日)。

同館では、新型コロナウイルスの影響で約3か月半にわたり臨時休館となり、中止となった展覧会もあるなか、久しぶりの展覧会開催となりました。どんな展覧会なのか、担当学芸員さんへの取材と合わせてリポートします。

《つつぢに揚羽蝶》1962 年, 油彩・キャンバス, 蘭島閣美術館蔵

ところで、画家 熊谷守一(くまがい もりかず)のことをみなさんはご存知でしょうか。

展覧会のチラシやプレスリリースには、熊谷守一の作風や展覧会の概要が記されていますので、以下に引用します。

単純な形態と明瞭な色彩を特徴とする画風「モリカズ様式」で人々を魅了しつづける画人・熊谷守一(1880-1977)。

明治・大正・昭和を貫く97 年の生涯と、70 年を超える画業を全うし、その風貌と人柄から「画壇の仙人」「超俗の画家」と呼ばれています。しかし、この世俗から離れたイメージが独り歩きし、時に作品そのものへの評価と混同されることもありました。

そこで本展では、熊谷がどのような人生を歩み、どのように絵と向き合ったのか、その真の像を改めて見つめなおします。画業を辿る上で欠かせない代表作と、近年になって所在が明らかになった逸品を中心に、油彩画・日本画・書の約200 点を通して、あるがままの「自分」を貫いた稀代の画人に迫ります。

(階段を上がってすぐ、大きなバナーが目に飛び込んできます。展覧会のメインイメージとして使われている《稚魚》という作品で、色のバランスやモチーフの配置が絶妙!)

展覧会のみどころ

まずは、今回の展覧会を担当された伊丹市立美術館学芸員の岡本梓さんに、展覧会のみどころや注目いただきたい点などについて伺いました(以下、背景グレーの部分)。

「超俗の画家」や「仙人のような画家」としてのイメージが強い熊谷守一の真の像に迫る展覧会となっています。展覧会は「人生をたどる」「絵をひもとく」「こだわりを楽しむ」と大きく3つの章に分けていて、人生・絵・生活の3つの視点から「人間・熊谷守一」の姿に迫るよう試みました。

(展示室(第1会場)の様子。入ってすぐのところに代表的な作品が並び、来場者を出迎えます。)

例えば、第1章の「人生」では第二夫人に育てられるという特異な生い立ちから、子供ながらに身につけた「自分は自分」という生き方を生涯貫いたということ、絵ができず貧しく苦しい日々が続き、様々な苦労と経験を重ねて「自分の生き方」と「自分の絵」を貫いたということをご紹介しています。

そのなかで、これまでに全国で開催された「熊谷守一展」では紹介されることがなかった、友達や付き合いのあったコレクターなどの肖像画も出品し、人間関係が広かったことも紹介しています。

(展示室(第2会場)の様子。油彩画だけでなく、熊谷守一が油彩画と並行して取り組んだ日本画や書の作品も展示されています。「3つの異なる分野を交差させながら、新たな表現を展開していった」と解説にもあります。)

第2章の「絵」では、いかに熊谷が世間の流行などに振り回されずに「自分の絵」を追求したのか、そして70歳を超えてから確立された「モリカズ様式」にどのようにしてたどり着いたのかを紹介しています。そのなかでも「繰り返し描く」という熊谷の特徴を今回は作品を並べ、比較する試みにも挑戦しました。

(展示室(第3会場)の様子。日常のモチーフなど、画家の関心やこだわりが感じ取れます。)

最後の第3章「生活」は主に晩年の日常を取り上げています。ここで皆様がよくご存知の「モリカズ様式」の絵の数々をご紹介し、最後まで熊谷がどのように「自分」を貫き、生き、描き続けたのかをご紹介しています。

今回の展覧会は、「仙人」や「超俗の画家」というイメージではない新たな視点から迫ったものなので、熊谷のことをよくご存知の人にとっても楽しめるものだと思います。もちろん、《ヤキバノカエリ》(1956年, 岐阜県美術館)などの代表作も出品しています。

《三毛猫》1959 年, 油彩・板, 愛知県美術館 木村定三コレクション

コロナウイルス感染症による影響と対応

また、コロナウイルス感染症による影響や、感染防止のための対応についても伺いました。

開幕の延期が続き、最終的には次の巡回先である天童市美術館さん、所蔵家・所蔵館の皆様のご協力をいただき、会期変更の上で開催することができました。コロナがまだ完全終息していない状況のなかで、当館も気をつけながら対策をした上での開催となります。

来館者の皆様には、消毒や個人情報のご記入、人数制限などをお願いすることとなります。当館では1時間60名までの入場制限を設けておりますが、7月に入り、来館者が増えていくと、入場制限でお待ちいただく場合が出てくると思います。

今のところ、平日は開館10時~11時頃が混雑しますので、平日・土日ともに皆様、午後にお越しいただく方がオススメです。そして7月下旬からはかなり来場者が増えると思うので、できるだけ早めにお越しいただければと思います。

展覧会の取材を終えて

美術館の臨時休館中は、コロナ禍がいつ収束するか分からない状況が長く続き、展覧会が開催されるのかどうか心配していただけに、またこうして展覧会を観覧できたことをうれしく感じました。感染予防や会期変更など、関係者の方々のご苦労を想像し、そのご尽力に改めて感謝する思いです。

実際に、展示室内では床に矢印を貼って順路を明示し、来場者の交差を最小限にするなど細やかな配慮がうかがえ、安心して観覧できました。そして、身近に美術館があって、日常の中で気軽に芸術に触れられる機会があることのありがたみも実感しました。

今回の展覧会は、タイトルにある「わたしはわたし」という言葉のとおり、熊谷守一が、自分が興味をもった対象(多くは身近な動植物)の色や形の特徴をどのように捉え表現するのか、一途に絵と向かい合い、絵に本当に必要なものを選び抜いてきた過程を丁寧にたどることができ、「モリカズ様式」が人々を魅了する理由がよく分かりました。

そして、その一途さが、決して「仙人」のように隔絶された幽玄の世界ではなく、友人関係や絵画の指導、家族との日常や自宅の庭にある身近な自然など、人に囲まれた暮らしの中で貫かれたことに力強さを感じました。

苦しい生活の中で先立たれた子供を描いた作品に胸を締めつけられたり、驚くような新鮮な色の組み合わせに心が踊ったりと、ドラマがたっぷり仕組まれた作品の数々が展示されています。ぜひ、お気に入りの一枚を探しに、展覧会を訪れてはいかがでしょうか?

*  *  *

残念ながら開催中止になった展覧会もあり、今回の展覧会が9月からのリニューアル工事に伴う長期休館前の最後の展覧会となっています。

これまで、ITAMI ECHOでは展覧会の度に取材させていただいたことで、伊丹市立美術館のこだわりや熱い思い、地域の美術館としての使命感を感じ、記事にしてきました。

振り返ると、「わたしはわたし」という独自の道を探求していく姿勢は、これまで独自の視点で展覧会を企画してきた伊丹市立美術館が歩みそのもの、とも言えるのではないでしょうか。2022年4月のリニューアルまでしばらくお休みとなりますが、その前にぜひ美術館に足をお運びください。

展覧会の概要

「生誕140周年 熊谷守一展 わたしはわたし」

会期

2020年6月23日(火)-7月31日(金)
月曜日休館

開館時間

午前10時〜午後6時(ただし入館は午後5時30分まで)

場所

伊丹市立美術館
伊丹市宮ノ前2-5-20

入館料

一般800(700)円
大高生450(350)円
中小150(100)円

  • ( )内は20名以上の団体割引
  • 兵庫県内の小中学生は、ココロンカード提示にて無料。また、4市1町(伊丹市・川西市・宝塚市・三田市・猪名川町)の高齢者には割引制度があります(平日は60歳以上、土日祝は65歳以上)
  • 会期変更前の招待券は使用できます。

主な新型コロナウイルス対策

[文&写真:マルコ@ECHO]

取材協力&作品写真提供:伊丹市立美術館

《つつぢに揚羽蝶》1962 年, 油彩・キャンバス, 蘭島閣美術館蔵
《三毛猫》1959 年, 油彩・板, 愛知県美術館 木村定三コレクション

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