公開日:2020年12月05日
伊丹市在住で2019年に逝去された作家、田辺聖子氏の短編小説『ジョゼと虎と魚たち』がアニメ映画化されて、12月25日から公開されることになりました。
ごく短い短編小説であるこの作品は、田辺聖子氏が数多く残した著作の中でも、特に有名でファンが多い作品のひとつです。
発表されたのは1984年のこと。ファンには「ジョゼ虎」と呼ばれるこの作品は、今から36年前のものですが、現在でもまるで古びたところのない稀有な恋物語です。
下半身が不自由な少女「ジョゼ」と、彼女の不思議な魅力に惹かれて、一緒に暮らすことになる大学生の「恒夫」。誰にも知らせず「共棲み」をするふたりのおままごとのような暮らしの先は、ハッピーエンドかサッドエンドか、そのどちらにも名付けられないものなのか…、儚くいさぎよい終わり方に、切ない読後感の残る小説です。
2003年には犬童一心監督によって実写映画化され、原作にはなかった、ふたりの「その後」も描かれています。池脇千鶴さんのキュートで意地っ張りなジョゼと、妻夫木聡さんの、へらへらして適当なようでいながら真摯にジョセと向き合う恒夫のふたりが主演の名作映画です。
小説の実写化は、特に原作ファンの方はがっかりすることもあると思うのですが、原作にはない人物やエピソードなども多々含みながら、原作と同じく映画のほうにも根強いファンがいるようで、何度かリバイバル上映もされているようです。
原作でも実写映画のほうでも、魅力的なのがジョゼが恒夫にごはんを食べさせてあげるシーン。大学生の恒夫は、ジョゼがつくる糠漬けやなんてことないお惣菜をおいしくてたまらぬようにがっついて食べます。それをふん、というようにうれしそうに見るジョゼが、いとおしくてならないんですね。
さらに12月10日には、韓国でもリメイク版の『ジョゼ』が公開予定だそうです。日本の実写版からは17年たって、海外でも普遍的な魅力のある作品なのですね。基本的なストーリーは原作と変わらないようですが、韓国版ならではのジョゼと恒夫の物語が期待できそうで、こちらもたのしみです。
小説、実写化、今度はアニメ。長く愛され続ける田辺聖子氏のこの作品が、表現のかたちを変え、次はどんな作品になって、わたしたちの前にもう一度新しい「ジョゼ虎」を見せてくれるのか、ほんとうに楽しみです。
12月25日より公開のアニメ『ジョゼと虎と魚たち』公式ウェブサイトはこちら。
『ジョゼと虎と魚たち』の原作は、伊丹市ことば蔵図書館で借りることもできます。
文:なみま
Written by なみま