公開日:2020年03月01日
猪名野神社の「本殿・幣殿・拝殿」の3つの建造物が「県指定重要有形文化財」として指定されました(2月20日付)。建物の歴史的・学術的な価値が、県にも認められたということですね!
初詣での参拝者が列をなす猪名野神社の拝殿
あらためて指定文化財制度を紐解くと、まず国が文化財保護法に基づき指定する「国指定文化財」があり、それ以外に自治体が条例に基づき独自に指定する「県指定文化財」、「市指定文化財」と、計3つの階層があります。
兵庫県指定文化財の体系表(県ホームページより転載)
それぞれに、「有形文化財」(建造物、美術工芸品など)、「無形文化財」(演劇、音楽、工芸技術など)、「記念物」(史跡、名勝、天然記念物など)といった複数の区分があります(国の区分は6種類、自治体は各条例により異なる)。観光地でよく名勝や天然記念物と書かれているのを目にしますが、このことだったんですね。
さらに有形文化財など一部の区分は、「指定」(重要なもので、現状の変更を厳しく制限する代わりに、修理等に補助金を支給して手厚く保護するもの)と「登録」(緩やかな保護措置で、活用を主眼とするもの)の2種類に分けられます。・・・ここまで来ると、体系が複雑でややこしいですね。
さて、今回、猪名野神社が指定を受けたのは、県の「指定重要有形文化財(建造物)」という区分。猪名野神社は、昨年5月に伊丹市から「市指定有形文化財」として指定されたことを受け、市教委から県教委に「県指定」の申請が行われていました。伊丹市立博物館をはじめとする関係者の方々の尽力もあり、スムーズな指定に至ったようですね。
ちなみに、伊丹市内の文化財の指定状況は、国指定文化財が計9件(有岡城跡、旧岡田家住宅など)あり、うち1件(書物)が最高峰の「国宝」に指定されています。県指定文化財は計14件(御願塚古墳、旧石橋家住宅など)ありましたが、今回の猪名野神社の指定で計15件になりました。同じく市指定文化財は計32件となりました。(2020年2月20日現在)
さて、猪名野神社はどういった点が評価されたのでしょうか?
伊丹市ホームページによると、本殿・幣殿・拝殿の3つの「大規模な建物が複合的に連なる形式が貴重であると評価」されたとあります。(3つの建物の詳細は市ホームページを参照)
秋の例大祭で神輿が社殿を巡る様子。左手前から右奥に向かって「拝殿」「幣殿」「本殿」が並ぶ
猪名野神社の幣殿内より、奥の本殿を望む
通常、参拝客がお賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らして拝礼する手前の建物が「拝殿」です。ご祈祷で社殿の中に入る時も、この拝殿内にて着座します。その奥の神饌(お供えもの)が祀られ、神職が祝詞奏上などの神事を行うスペースが「幣殿」に当たります。さらに奥、橋でつながって一段高く位置する建物が「本殿」です。これら3つの建物が「複合的に連なる形式」が貴重だと評価されたとのことです。
江戸時代(1798年)に刊行された『摂津名所図会』に描かれた、当時の猪名野神社の全景・・・今とほとんど変わらない。右上に記載された野宮(ののみや)は江戸時代の旧称で、牛頭天王(ごずてんのう)は祭神
猪名野神社の本殿は1685年の建築で、江戸期の5代将軍吉綱の時代から335年の間、風雪に耐え現存する貴重な歴史的建造物です。当時、伊丹郷町は酒造業で繁栄し、元禄の最盛期を迎えようとしている頃でした。旧岡田家住宅は1674年の建築なので同時代ですね!現在にも残るような立派な酒蔵や寺社などの建物が次々と建てられていったのでしょう。
市のホームページによると、本殿は「保存状態が良く、技術的にも上質で、伊丹郷町の領主であった近衛家による援助で極めて良質の檜(ひのき)材を用いていることが特色」とあります。確かに、本殿からは凛とした気品のようなものが感じられます。
猪名野神社は1995年の阪神・淡路大震災で、本殿を取り囲んでいた菱格子付きの塀や唐破風の通用門が倒壊するなど、大きな被害を受けました。本殿の周囲は、今でもフェンスにより仮囲いされたままになっています。震災前の本殿の写真を見ると、気品ある塀に囲まれた中にスクッと建つ姿からは風格が感じられます。
現在、猪名野神社では、損傷が大きい拝殿など社殿の修復事業を進めるため浄財を募っているとのこと(前回の大規模修復は震災の5年前の1990年に行われました)。今後は、県の指定により県からの補助金も期待できることから、修復に向けて一歩前進と言えるのではないでしょうか。
猪名野神社は、初詣でや秋の例大祭、「猪名野神社の市」など各種の行事で訪れる機会も多いと思いますが、あらめて伊丹郷町の繁栄の歴史に思いを馳せながら、参詣してみてはいかがでしょうか?
伊丹市宮ノ前3-6-1
TEL:072-782-270
[文・写真:マルコ@ECHO]
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