コラム|作家の宮本輝さんが描く、伊丹の家族と個人。わたしたちのとなりにある物語。

公開日:2021年06月11日

大作家同士は伊丹のご近所さん!

宮本輝さんは自身を「典型的な大阪の子」と語るように、幼少期と青春期を大阪で過ごし、大阪を舞台にした著作を多く書かれていることで有名ですが、作家生活を始めてからは伊丹に在住。以前にコラムで書いた田辺聖子さんともご近所で、親しくされていたそう。

集英社の『田辺聖子全集』の出版記念対談では、伊丹にある田辺家か宮本家、どっちが表か裏か、「この際はっきりさせときましょう」と宮本さんが言う場面もあります。


宮本 そうですね。ところで、よく田辺邸と宮本邸は、どっちが裏か表か訊かれるんですけど、この際はっきりさせときましょう。梅ノ木5丁目の田辺邸は6丁目のうちの裏です(笑)。
田辺 あら、私は「うちの裏にミヤモっちゃんおるよ」っていってるけど(笑)。
宮本 まあ、後から来たぼくが譲らないかんわな。先住民族はやっぱり大事にせないかん。
田辺 いやいや、ここは太っ腹なとこ見せて、譲りますわ(笑)。


大作家同士(伊丹名誉市民同士!)のご近所トークがおもしろい!

伊丹に住む「普通の家族」のもとに現れた彗星

今回は宮本さんがまさに伊丹を舞台に書いた長編小説をご紹介します。

『彗星物語』(文春文庫)は「伊丹の北端」に住む総勢13人と犬1匹の大家族、城田家に3年間のあいだに起こる出来事を描いた作品です。なんと1ページ目から「昆陽池」という言葉が出てきます!城田一家が愛犬フックの散歩に出かけるのはたいてい昆陽池公園、というなんともわたしたちの身近に感じられる作品です。

物語は、小学生から大人までが暮らす城田家に、ある日ハンガリーからの留学生ボラージュがやってくるところから始まります。3年間の約束で城田家にホームステイしながら、神戸大学大学院で「江戸幕府崩壊と明治維新」について学ぶボラージュ。

ボラージュという外からやってきた人物がひとり加わることによって、城田家みんなにそれぞれに変化が起こります。ボラージュ自身も日本の大学院で学び、伊丹で城田家と暮らすことによって、自身の変化や自立の気持ちと向き合っていくことになります。
ときに衝突し、怒ったり泣いたりしながら、最後には仲直りして、一家はともに暮らしていきます。
この「家族」の感じがとてもリアルで、自分の家族にもこういうことあるなあ、と思わされます。

ボラージュが日本での勉強を終えてハンガリーに帰るとき、城田家の母である敦子はこんな気持ちをふと抱きます。


「生きとし生けるものは、すべて<突如、彗星のごとく>あらわれて消えて行く。いったい、どこからあらわれて、どこへ消えて行くのであろう」


長い家族の歴史の中で、彗星のように現れた青年が、城田家のひとびと、ひとりひとりの運命や意識を変えて、また遠いところへ飛び去っていきます。彼が去ると同時に『彗星物語』は終わりますが、昆陽池近くに住むひとつの家族は、かたちを変えながら続いていきます。

もしかしたら伊丹の商店街や駅で、彼らとすれ違うことがあるのかもしれません。

たくさんの物語の中から、読者がつくる結末

『彗星物語』では家族を描いた宮本さんですが、他にも多数の著作があります。

たとえば、『星々の悲しみ』(文春文庫)は、大学浪人中の男の子が、行きつけの喫茶店に飾ってある「星々の悲しみ」というタイトルの絵画を仲間と盗む表題作を始めとして、全編を通して青春期の出会いや死について、繊細な感性で書かれています。

他にも、代表作『泥の河』(新潮文庫)などの大阪を舞台にした作品や、『ドナウの旅人』(新潮文庫)といった東西ドイツを舞台にした作品など、著作の幅が広いです。『ドナウの旅人』は留学生ボラージュのモデルとなったハンガリー人通訳の男性も登場します。このハンガリー人男性との出会いから、宮本さんは『彗星物語』を書いたのですね。

大団円は嫌いで、「結末」は読者につくってほしいとあるインタビューの中で語っていた宮本さん。

たくさんの著作の中から、自分だけの結末をつくることのできる物語を探してみてください。

今回取り上げた本を含め、宮本輝さんの著作は伊丹市立図書館で借りることができます。また、「ことば蔵」には宮本輝さんの展示記念室もあり、たくさんの著作や資料を閲覧できるので、ぜひ利用してみてください。

伊丹市立図書館本館ことば蔵
伊丹市宮ノ前3-7-4

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