公開日:2023年07月25日
2014年の第1回開催から今年で10年目を迎える、野外音楽フェス「ITAMI GREENJAM’23」。“市民表現のプラットホーム”を掲げる伊丹最大級のイベントの軌跡と舞台裏を紐解く全5回の連載の第2回。
連載第一回「”市民表現のプラットフォーム”を掲げる無料野外フェス、10年目の現在地」
先日、第二弾のアーティストとして、梅田サイファー、TENDOUJI、ガガガSPらの出演が発表された。
同時に、10年目にして初めて、住友総合グランドエリアSTAGEを設け、同エリアを1ドリンク付500円のチケット制とすることの発表もあった。会場を拡張し、予算の厳しさから苦渋の決断だったという。
「ITAMI GREENJAM」は新しい挑戦を続けている。
今回は、「大阪・関西万博」との連携という初の取り組みについて、取材した。
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今年5月、主催から開催概要が発表された際の文末に、こんなコメントがあった。
今年のITAMI GREENJAMは2025年大阪・関西万博に向け兵庫県内の機運上昇を図る取組みとして、兵庫県及び伊丹市と連携した形で開催される初めての地域フェスとなる事もあわせて発表させていただきます。
大阪・関西万博といえば、国際条約に基づいて行われる「万国博覧会」。その名の通り、日本政府も関わる世界的な一大イベントだ。ただ、公式キャラクターの『ミャクミャク』が“キモかわいい”と時折話題になっているが、開催の全容はまだあまり市民には伝わってきていない。
そして、「GREENJAM」の規模が年々大きくなっているとはいえ、ひとつの地域イベント、ローカル音楽フェスでありながら、国際イベントである万博とどのような形で連携するのだろうか。
意外にもそれは、フェス開催にあたってのある問題解決がキッカケとなっていた。「ITAMI GREENJAM」共同代表の大原智さんはこう話す。
GREENJAMが今年、10年目を迎えるにあたって(去年の池田市会場から)昆陽池公園に帰ってくるという時に、どうしても昆陽池公園では安全面を確保できない。前回、昆陽池公園で開催した2019年は会場がパンパンになったので。
そこで、今年は会場を広げることになって、昆陽池公園そばの住友総合グランドを借りられないか、ということでまず伊丹市さんに相談したんです。
住友総合グランドは福利厚生施設ということもあり、単に「音楽フェスをやるから貸してください」というのは難しいことが分かった。また、グランドを所有する住友電気工業株式会社(住友電工)は、取締役会長の松本正義さんが関西経済連合会の会長、そして、2025年日本国際博覧会協会の副会長を務めていることも知った。
そこで、伊丹市 空港・にぎわい課課長の河村真吾さんを通じ、兵庫県の万博関連部局にも相談して支援を得ることとなった。
兵庫県 企画部 万博推進局 万博推進課 万博調整班長の城古博史さんはこう話す。
GREENJAMの作るフェスが万博と親和性があることが説明できれば、土地が借りられるんじゃないかということで住友電工さんにお願いに行きましょうかと。そこが(万博との関わりの)スタートだったんです。
幸いにも、住友電工との交渉はうまくいき、イベント開催により万博の機運を高めるという理由で会場使用の許可を得ることができた。
しかし、「ITAMI GREENJAM」の開催を万博機運醸成に具体的にどう繋げるのか。さらに、大阪・関西万博の後援を受けることができないかと、GREENJAMの大原さん、伊丹市の河村さん、兵庫県の城古さんはミーティングの場を設けた。
当初、後援を取るのは難しいのではないかという声が各所から上がっていたという。後援がついているのは、スポンサーとして万博へ出資している大手民間企業などがほとんど。スポンサー企業ではなくても、万博のテーマと合致する取り組みによって後援を受ける仕組みはあったが、県として申請した例もなく、基準も分からなかった。
城古さんと共に申請に携わった、同課の宮﨑泰生さんはこう話す。
協会に最初に連絡した時に、反応から難しいなと感じました。「音楽イベントで申請する事例が初めてだ」と。
万博のために「GREENJAM」の形を変えてしまっては意味がない。大原さんは、これまで積み上げてきたコンテンツそのものが、万博の理念に合致すると考えた。
万博のコンセプトの中にある“共創”、そして“SDGs”。これは、新たにそのために作るコンテンツというわけではなく、GREENJAMで元々やっていたことです。
例えば、子ども実行委員など子どもたちの参加や、リユース・リサイクルなどに価値を置いた雑貨店の出店者さん、環境問題の思考を持った表現をされているアーティストなどは、GREENJAMの会場に元から溢れています。
(GREENJAM共同代表の大原さん)
GREENJAMは、表現したい人が誰でも参加できるように、市民主体で創り上げていくことが他の音楽フェスと違った魅力だ。
メインステージに上がる出演アーティスト以外にも、幼稚園児たちが会場の装飾をつくり、ボランティアスタッフが会場を整備、学生や市民アーティストがペインティングし、盆踊り保存会の踊り手たちが熟練の踊りを披露する。まさに“共創”の現場である。
兵庫県万博推進課の城古さんも、大原さんの案を聞き、例えばこのようなコンテンツを大阪・関西万博やSDGsの関連としてひとつにパッケージングしてGREENJAM内で展開することで、万博機運醸成に繋げられるのではと考え、日本国際博覧会協会へ申請した。
申請内容は認められ、6月には大阪・関西万博の後援を得る初めての音楽フェスとなった。 ITAMI GREENJAM’23公式ウェブサイトには、<後援>として「EXPO2025」のロゴマークが掲載されている。
多くの作り手メンバーにとって自分がやっているセクション、ブースに万博の後援がつくということは公的に認められたということなので、新たな可能性を持てると思うんです。
(ITAMI GREENJAM共同代表の大原さん)
実は、大原さんは過去に万博のとあるプロジェクトに申請申込みをしていた。
大阪・関西万博に「共創パートナー」(※複数の共創チャレンジを生み出し・支援をする法人・団体と協会が認めたもの)というものがあって、以前に「一般社団法人GREENJAM」として、登録申請したことがあったんですが、認可に至らず……。
でも僕は、活動を通じて、万博が掲げる“共創”や“SDGs”などの理念と通ずる部分が多くあると確信していました。
今回、こういった形で後援がついて、ようやくGREENJAMの活動や価値、関わってくださっている人たちが認められた。別に認めてもらわなくても価値は変わらないけれども、ハンコがついた方が、関わっている人たちの可能性が広がるんじゃないかなと。
(ITAMI GREENJAM 共同代表 大原さん)
大原さんは、万博や自治体が掲げる“共創”や“地方創生”を、GREENJAMの活動を通じて肌で感じ、音楽フェスというのは、これらを実現するのに非常に適したツールだと考えている。
また、最近では、兵庫県の職員向けに「音楽フェスについての勉強会」も開催しているという。
伊丹市 空港・にぎわい課課長の河村真吾さんもGREENJAMの存在を、まちづくりの理想のあり方と捉えている。
民間の方々が主体的に、にぎわい作りを推進してくれるというのは、理想系なんです。市民が作り続けて、行政は支援側に回っている。
GREENJAMは、参加者も作り上げている人たちも若い人が多くて、どんどん派生していくだろうと思います。そこに価値を置いています。
大阪・関西万博という国際イベントと連携した初の取り組みとなる「ITAMI GREENJAM’23」だが、基本姿勢は何も変わらないことがわかった。
ただ、会場内で一風変わった風景が見られるかもしれない。兵庫県万博推進課の城古さんからは、こんな話も出た。
万博の協会の方から「万博の盆踊りをやってほしい」と電話が来ています。万博テーマソングの盆踊りバージョンがあるんです。GREENJAMの後援申請書に「盆踊り」というコンテンツがあったから、「万博テーマソングの盆踊りバージョンをどんどん使ってください」と。
最初は後援を得るのも難しいと言われていたのに、今は逆に「(盆踊りの)講師も派遣しますから」と言われているくらいです(笑)
公式キャラクターのミャクミャクが会場に来てくれないか画策しているというが、各地で引っ張りだこで、まだわからないという。
公式発表でもあったように、今年の「ITAMI GREENJAM’23」は、初めて会場を住友総合グランドまで拡張して開催される。昆陽池公園会場と合わせて面積が広くなり、ゆったりと楽しめそうだ。(住友総合グランドエリアSTAGE は1ドリンク付500円)
国際イベントで世界が実現を目指す、未来社会への共創やSDGsを、ローカル音楽フェスの「ITAMI GREENJAM」が体現していることを、会場へ足を運んでぜひ感じてほしい。
ITAMI GREENJAM’23
2023年9月17日(日)・18日(月祝)
会場:昆陽池公園
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企画制作:GREENJAM実行委員会
主催:一般社団法人GREENJAM
Written by Wakako Niikawa