公開日:2021年02月26日
旧大坂道沿い、伊丹5丁目にある『町家 大星(だいぼし)』をご存知でしょうか。
約300年の歴史ある伝統的な木造建築に耐震補強を施し、2020年7月からシェアオフィスやレンタルスペースとして利用されているところです。
オーナー箟(やの)さんの「古いものを大切に、ただ残すのではなく新しく繋いでいく」という想いのもと運営されています。
ここで、なんとでフランス料理のコースランチがいただけるとのことで、取材させていただきました。
京都など町家がレストランやカフェとしてリニューアルされている場所は色々ありますが、レンタルスペースでフランス料理??
建物の中に入ると歴史を感じる入口とその奥に広がる、高い梁の天井と漆喰壁のゆったりしたスペース、そしてキッチン。テーブルも4人掛けでゆったりしています。
お料理を提供してくださるのは、takefumi saitoさん。
現在は京阪神を中心に、固定の店舗を構えず、依頼を受けた場所でフランス料理をベースにしたお料理を提供されています。
自らお客を出迎え、お水とおしぼりとメニューを配り、挨拶をされてお食事スタート。
まずは前菜。
手前右から時計回りに、淡路玉葱ドレッシングのサラダ・〆鯖とカリフラワーのピュレ・彩り野菜のフレッシュピクルス・温かいベジタブルコンソメスープ。
小皿に盛り付けているのが和風テイストで可愛らしいですね。
調理方法はあくまでフランス料理をベースとしていますが、「日本の食材を使い日本の人に楽しんでもらえるように」、そして今回は特に「和のテイストを自然に取り入れ、空間に似合うように」と考えておられるそうです。
〆鯖は上品な酸味とカリフラワーの優しい甘さで、意外な組み合わせを楽しませていただきました。どの前菜も野菜の自然な甘みが堪能出来て、始まりからしみじみ満足です♪
続いて魚料理。
静岡県焼津鯛のバプール・柚子の香る小かぶ餡かけ。
お皿の中が初春です!!一瞬にしてときめく心♪食べるだけでなく見る幸せもあるって、素敵ですね。
バプールとは蒸すお料理を指すそうで、今回は昆布出汁で蒸された鯛。その他色々な旬の食材の食感が、優しい味わいの餡でまとめられていました。
一緒に供されたパンは、市役所のすぐ南にある「いたみベーカリー」さんのもの。
シェフがご自身の料理に合うパンを探している中で、「これこそ!」と出会われたそうです
麦の香りを楽しむパン・オ・ルヴァンと、麦の甘さを楽しむブリオッシュ。パンの名前だけでなく特長もお話くださることで、お食事がより豊かなものとなりました。
そしてパン皿が温かい……レンタルキッチンとは思えない細やかなおもてなしです。
そして肉料理。
霧島山麓豚ロースのロティ・玄米黒酢を効かせた赤ワインソース。
ロティとは塊のお肉をゆっくり時間を掛けて中まで火を通す調理法、いわゆるローストのことだそうです。
ロティに使わなかった部分はミンチにしてハンバーグに。一つの食材から出来た異なる料理を一皿で……何とも贅沢です。
添えられる赤ワインソースは玄米黒酢を効かせており、ここにも和のテイストが使われていました!と思いきや中国料理の酢豚からインスピレーションを受けたとか。濃厚、なのに後口はさっぱりした美味しさでした。
あっさりしたロティには、彩り美しいほうれん草&ビーツのソースにトマト塩、スパイスたっぷりのパンデピスを砕いたものなど、色々絡めていただきます。
「家でこれは出来ないわよねぇ」とお隣にいらしたマダムも満足そう……♪
すっかり満たされ、さぁデザート。
シェフのスペシャリテ・ガトーショコラ。
美しい!!本日一皿ごとに心の中で「わぁ!」と言っていましたが、これは声に出しました(笑)。舌も心もとろけました~♪
シェフお一人で料理、サービス、洗い物もこなされての90分。『大星』の空間とあいまって、素晴らしいお料理ですが肩肘張らず、アットホームなおもてなしをしていただいている気分でした。
ところでsaitoさん、どうしてこの企画をなさったんでしょうか?
3歳くらいから伊丹で育ち、高校卒業後、料理の道に進まれたsaitoさん。ホテル勤務や街のレストランで経験を積まれ、視野を広げるために東京へ。
そしてゆくゆくは伊丹を拠点とするつもりでいったん戻ってこられるも、自分に足りないものがまだあると感じ再び東京で修行されました。
若い頃より、「設備から調理器具、食材やスタッフまで何でも揃っているから良いものが出来て当たり前」と超有名店で働くことはせず、何もないただのキッチンと普通の食材でどこまで美味しいものが出来るかを考えていたそうです。
自分は「天才」には程遠く、様々な現場で色んなシェフの仕事を多方面から吸収し、自分に落としこむという地道な作業をコツコツしてきて今がある、とおっしゃるsaitoさん。
初めは独立して自分の店を構えることを目指すも、食の仕事の多様性を身近に感じるようになった時に、店舗をもたずに依頼を受けて作るスタイルになったそうです。
このスタイルで出発する前には、色んなキッチンに対応するため家事代行の会社に所属して一般家庭のお台所に入る経験もされたとか。
会場の雰囲気・イベントの主旨・客層などからメニューを考えるので、同じ時期に違う会場で料理を供する機会があれば、旬の食材が重なる可能性は高いが同じ人間が作ったとは思えないメニューになると思う、とのこと。
店舗を持たないこのスタイルだからこそ実現できる内容と価格で、本格的なコース料理を気軽に楽しめたり、空間によって異なる様々なコラボレーションを体験できることが魅力になっています。
すでに伊丹市内でも色々なイベントに関わっておられます。
saitoさんが『大星』の存在を知ったのは、昨年の夏。仕事として作業する為のレンタルキッチンを探して出会ったのがきっかけだそうです。
キッチンを借りるだけのつもりでしたが、『大星』の空間を見て、そして、古い物を大切に新しく繋いでいくというオーナーさんの想いに共感し、ここでランチイベントをすることになったそうです。
「大星の名前・空間を色んな方に知っていただきたい」「この場所で皆さんにリラックスして楽しんでほしい」という想いで、大星の空間に合うお料理を考え、それこそ器からこだわっていきたいとのこと。
まずは2ヶ月に一度のランチイベントを半年かけて開催してクオリティを追求していき、そこからの形を考えていかれるそうです。
ブームは苦手、コツコツ続けることで今、自分の思う広がり方になってきているというsaitoさん。
彼について『大星』のオーナー箟さんは、「saitoさんの料理を食べて実力があると感じた。これからも色んな人に出会って伸びていってほしいし、伊丹にtakefumi saitoシェフがいると知ってほしい。そして大星でのこのイベントも、saitoシェフなら行こう!という雰囲気が出来てくればいいと思う」と語ってくださいました。
『町家 大星』×『takefumi saito』……これからどんな展開を見せてくれるか、伊丹にまた新たな楽しみが増えそうで目が離せませんよ!
Written by みーた