公開日:2023年12月01日
9月中旬とは思えない強い日差しが照りつける。時折雲が覆い、吹く風が心地よい秋の入り口の空気を運ぶ。そんな2日間。
2014年からの開催で、幾度も台風や荒天の影響を受けてきた。
今年は、歴史の中でも珍しく、開催日の天気予報に晴れマークが並んだ。
それは、運営陣や出店者、アーティストたちがパフォーマンスに集中できる環境に少なからず寄与したことだろう。そんな、10年目のITAMI GREENJAM’23。
天候にも恵まれて盛況となり、来場者はのべ約3万人。
今年初めて導入された有料ライブエリアチケットは、2日間とも完売した。
GREENJAM共同代表の大原智さんは開催後、「まずは何よりも、大きなトラブルなく無事に終えられたことに安堵しています」と、胸をなでおろした。
コロナ禍での中止と昨年の池田市開催を経て、4年ぶりに昆陽池公園に帰っての開催。しかも、会場を拡張して。
規模が大きくなる一方で、「市民表現のプラットフォーム」を掲げ続け、表現したい人が自由にフェスに参加して作り上げる「文化祭形式」での開催にこだわってきた。
ITAMI GREENJAMは、10年目にしてどんな景色を描いたのだろうか。
そのほんの一端を、リポートする。
Index
初の取り組みとなったのが、昆陽池公園に隣接する住友総合グランドの有料ライブエリア。これまで全エリア入場無料を続けてきたが、参加者の増加で安全面への配慮から会場を広げ、警備を強化したことにより苦渋の決断だったという。
有料とはいえ、チケットは500円という安価でスペシャルドリンク付き。
大阪・西成のクラフトビールブランド「Derailleur Brew Works」がITAMI GREEN JAM’23のためにプロデュースした、オリジナルビールとアップルレモネードが参加者ののどを潤した。
むしろ、新たな楽しみが増えたと言ってもいいだろう。
GREENJAMメインスポンサーへ〜「シクロ」|インタビュー連載第4回 | 「ITAMI GREENJAM’23」昆陽池公園で開催決定〜GREENJAMに共鳴する企業の人々(ITAMI ECHO)
有料エリアでライブを見ていた50代くらいの男性は、「近所に住んでいて毎年、参加しています。今回は、スチャダラパーとガガガSPのステージが楽しみ。食べ物もおいしいし、最高!」と屈託のない笑顔で話した。
また、徳島県から来た看護師の20代女性は、小山田壮平とbetcover!!のライブを目当てに、初めて1人で参加したという。
今日のために仕事を頑張りました。皆さんが話しかけてくださって1人でも心細くないし、アットホームな雰囲気がとてもいいですね
出店数も増えてにぎわう会場内は、例年のGREENJAMと同じように家族連れの姿も目立った。
神戸市からきた40代男性は、親子3世代での参加だ。
ガガガSPのコザック前田さんと同級生なんです。今日は、妻と5歳の子どもと両親を連れてきました。気軽に来られますし、ライブだけじゃなく、自然と触れ合えるのがいいですね
入場無料の昆陽池エリアの木陰に椅子を置いて、杖をついた父親たちとゆったりと空間を楽しんでいた。
ライブで拳を突き上げる人、子どもたちとキッズエリアで遊ぶ人、飲食ブースで迷う人、出店エリアで洋服を吟味する人、吹奏楽部のステージを楽しむ人、盆踊りで熟練の踊りを披露する人……あまりに多様で書ききれないが、GREENJAM会場は、今年もそれぞれの楽しみ方を持ち寄り、人々の笑顔であふれていた。
今年、新たな会場として加わった住友総合グランドエリアの入り口付近では、多くの人が足を止めていた。
出迎えたのは、目をひくイラストレーションの看板と、草木や造形物で作り上げられたゲート。
ゲートアートを企画・制作したのは、「GREENS HIKERS」。
ランドスケープデザイナーの谷向俊樹さん(緑向ガーデン・池田市)、DIYクリエイターのコースケさん(pinus・池田市)、イラストレーター・グラフィックデザイナーの北窓優太さん(窓アカリ商店・豊中市)から成る。
GREENJAMとの関係は、北窓さんに伊丹との縁が生まれたことから始まる。
北窓さんは、ご家族がきっかけでGREENJAM共同代表の大原さんたちとつながった。(※北窓さんへのインタビュー(2021年クロスロードカフェでの個展にて))
そのあと、ITAMI GREENJAMでライブペイントをやって。(GREENJAMとの関わりは)そこからですね
(北窓さん)
2016年のITAMI GREENJAMは台風の影響により開催中止となり実現されなかったが、2017年、2018年の開催時にはライブペイントを行った。
2018年は、クロスロードカフェで一度目の個展を行ったり(2021年には2度目を行う)、ITAMI GREENJAMのそれまでの軌跡とプロジェクトを掘り下げた「ITAMI GREENJAM LOCUS 」BOOKの企画・制作を行うなど、北窓さんの伊丹やGREENJAMとの関わりはさらに増えた。
2020年のコロナ禍中止にともない代替開催された「ITAMI CITY JAM」では、北窓さんがクラウドファウンディングのキービジュアルのイラストレーションやデザインを担当し、リターンTシャツのデザインを行ったほか、巨大バナーとなってイオンモール伊丹昆陽で展示が行われた。三軒寺前広場会場では、GREENJAMとコラボレーションした「BOTAFES(池田市)」エリアの一員として今回のチームが携わり、メンバーとGREENJAMとの関係性が深まった。
今回、10年目のGREENJAMに寄せて制作されたゲートアートについて、谷向さんは話す。
ただにぎやかに飾り付けるのではなく、10年という時間に焦点を当てて、イラストレーションもこの実物大の植物たちも、きっちりとコンセプトを持たせた上で存在しているんです
ゲートをよく見ると、青々と茂った緑の木々から、葉すら見当たらない丸裸になった枝が連なって存在している。
芽吹く、茂る、朽ちる、そして種からまた生まれるという時間の流れを表現しています。
GREENJAMは、最初は(共同代表の)大原くんたちが「ただ僕たちの文化祭をやりたい」というところから始まったけど、思いがけず、まちや人に種を落として、この10年の間にいろんな実り方をしてきました。それはとても素敵なこと。
この実りが自然に続いていくようなループ、人の心の豊かさを育むループになぞらえて、ゲートアートを作ったんです
(谷向さん)
植物に吊り下げられたCD盤やミラーは、「合わせ鏡から生まれる世界」をイメージ。のぞき込むと顔が映り、この日来場した人たちも、「ループを生み出す1人」として、その循環に入っていく。
GREENJAMのメインコンテンツである音楽を閉じ込めたCDもタイムカプセルとなって、「人々のループと共に旅をする」という意味合いを込めているという。
コースケさんが手がけた巣箱は、GREENJAMのメインビジュアルに登場する鳥を見立てた。巣箱からは、鳥たちが運ぶ実(種)が溢れる。
ゲートでは、来場者に植物の種とメッセージカードが配られた。
「IGJから生まれた種を、育ててください」そうカードに書かれている。
いろんな植物の種を配っています。GREENJAMが終わって日常に戻ってから、また花が咲いて続いていきます。今日ここで写真を撮ってくれる人もいっぱいいると思いますが、それも思い出に残って、皆さんの中に続いていけばいいなと
(谷向さん)
来場者は、10年目のGREENJAMに寄せるメッセージを短冊に記して木々にぶら下げ、彩りを添えていた。
ゲートアートをはじめとした10周年記念コンテンツとGREENJAM 10年の歩みは、「ITAMI GREENJAM 10TH CHRONICLE」として、特設サイトで公開している。
「続けるの、ほんまに大変なんです」
今回の連載の取材の中で、GREENJAM共同代表の大原智さんは何度もそう口にしていた。
10年目の大仕事を終えて、今、何を思うのか、あらためて振り返ってもらった。
2014年から始まった、「フェスごっこ」が、まさかこんなことことになるなんて誰も思いもしなかった。
僕を含め、誰も何万人が参加するフェスなんてしたことが無いのに、「市民表現文化祭」というイベントコンセプトや、もちろん予算に限りがあることもあるけど、あくまで「自分たちと街の人達でやるんだ」という、無謀や危険とも取れるこのイベントは、きっと実行委員みんなにとっても途方もない苦労をもたらす魔物でした。
それでも、皆、万人規模のフェスの救護責任者を担い、万人規模のフェスのボランティア責任者を担い、万人規模のフェスの各エリア責任者を担い、意地と愛でこのイベントに食らい付いてきました。
だからこそ、実行委員を中心として、このイベントに関わってきてくださった皆さんが、「めーーーっちゃくちゃしんどかったけど、最高やった!」と言って終える10年目にしたかった。
汗だくで疲労困憊で足を引きずって終わるだけの10年目にはしたくなかった。そこが僕の中で最も大きな今年の成果基準でした。
そして、ITAMI GREENJAM’23当日。初めて2日間ともに僕も実行委員も楽しかったと思えました
20代から街の人々を巻き込んでひた走り、プレッシャーを背負い続けた青年は正直な思いを吐露した。
大原さんが言葉を続ける。
あんなに辛くて苦しかったのに、終わった直後すぐに「またやりたい、、」と思ってしまっている。それくらい僕らはすごく楽しめました。
おかげで、この10年間が辛い記憶から、青春の中にいた様な、夢の中にいたような、そんな10年間の記憶に変えることが出来ました。
余りにも理想過ぎる、こんな無謀なフェスを10年間も続けさせてくださった関係者の皆様に、最大限の感謝を伝えたいです。皆さんがいたからこそのGREENJAMでした。
すべての皆さん、ITAMI GREENJAM’23と2014年からの10年間、本当にありがとうございました
ゲートアートが表すように、GREENJAMは10年の時間の中で、この街のさまざまな人たちと共に育ってきた。
音楽ファンや出店者、自治体だけではない。これまであまり交わることのなかった人々や年齢、属性、文化の壁をも越えてきた。
10年という時の流れで、「昆陽池のフェス」は、主催の青年たちの想像を超えたものになった。
市民を飲み込み、そこで生まれたものは日常の街へ還元され、生きていく表現へとつながっている。
街に人々が行き交う限り、GREENJAMにもきっと完成形はない。
街は変化し続けるし、人は交われば、離れもする。出ていく人も新たに入ってくる人もいる。
ITAMI GREENJAMは、これからも、その交差点であり続けることだろう。
ITAMI GREENJAM’23
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公式LINE
企画制作:GREENJAM実行委員会
主催:一般社団法人GREENJAM
インタビュー連載
「ITAMI GREENJAM’23」昆陽池公園で開催決定
Written by Wakako Niikawa